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夢幻の中で
南雲の令嬢

「一葉、さま?」


「私の名前をご存知なの?」


やはり薫の思ったとおりだった。
土佐の南雲家をまとめ上げている宗本家、その家の一人娘、一葉が目の前にいる。


(俺にこんな苦しみを与えている家の、娘…)


「でも、僕の事は知らないだろ? どうせ……」
「薫、でしょ?」


「え……?」


予想だにしない言葉だった。


「な、なんで…俺の、名前……?」


空気としか思われていないと思っていた。
雪村と言う名門の鬼の家に生まれながら、家が滅ぼされたと言うだけで、女鬼でないと言うだけで虫けら以下の扱いを受けて来た薫にとって、一葉が呼んだ彼の名は一筋の光の様に心の中に入ってきた。


「お父様たちが話していましたから。 南雲の家に来て、何かとお辛い事ばかりでしょう? 私が進言をしてから少しは変わりましたか?」


「しん、げん…?」


「まあ、お聞きになっていないの? じゃあ、状況もあまり変わっていないのでしょうね…。 ねえ薫、こちらにいらっしゃいな。 貴方、この木に登ろうと思ってここにきたのでしょう?」


「俺がここに来るのは、1人になりたい時だ。」


薫がそうツンとして言い放つと、一葉はクスクスと笑った。


「本当に意地の強い方。」


「意地なんかじゃない。 強くないと生きていけないんだよ。」


「ねえ薫? 貴方にとって土佐はどの様なところ? 南雲の家は、どの様なところ?」


「俺にとっての南雲……?」


これには返事に困った。
正直に答えたらまた手酷く扱われてしまうのか、そんな気持ちが脳裏をよぎる。


「誰にもしゃべったりしないわ。 私が知りたいの。 私長いこと京にいたからこっちのことはあまりよく知らなくて…」


「でも、俺の言葉なんて聞いても……」


「貴方がいいの。聞かせて?」


そう言うと、一葉はふっと微笑んで木からさっと飛び降りた。



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あきゅろす。
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