夢幻の中で
憎しみと愛憎しみ
「……っ!! あ、ゆめ……」
土佐。
夜、苦しくて目が覚めた薫は、また幼い頃の夢を見ていた。
あの後、結局一族は壊滅的に殺られ、棟梁の子であった千鶴と薫はそれぞれ別の家に引き取られた。
薫を引き取った土佐南雲家は、女鬼に恵まれていなかったため、女鬼である千鶴を欲しがっていた。
だが、来てみると期待外れの男鬼。
以来、薫は南雲家で迫害と言っても過言ではない扱いを受けている。
「この夢、見るの何度目だ? 本当に嫌になるよね。 …千鶴」
俺はお前の事を忘れないよ。
女鬼だからって理由でのうのうと生きているお前を…
それは恨みだけではなく、羨みも含んでいた。
「俺だけがこんな想いをするなんて間違っている。 同じ家に生まれたんだ。同じ日に…。 」
南雲家の辛すぎるいじめに対して、もう涙も出なかった。
ただ、大好きな妹と別れさせられて、自分だけがこんに惨めな思いをしていると思うと、自嘲気味な笑いが浮かんだ。
「俺が女だったら。って言うのも何回も思って、その後凹んだっけ…」
辛い過去の夢を見たからか、目が冴えてしまい、気がつくと辺りも薄っすらと明るみがさし始めていた。
この家での薫の立場は、奴隷そのもの。
炊事洗濯、その他年が上の鬼たちから命じられたことは、逆らえばひどい仕打ちが待っていた。
「いつか、絶対殺してやる……」
いつからか持ち始めた、南雲一族への殺意。
それは、年々消えることなく、逆に増している。
「はあ。今日もつまらない一日が始まる、か…」
いつまでこんな生活が続くのか。
いつになったらここを出ることができるのか。
15歳の薫は、そんなことを考えながら、その日も一族の下働きとしての仕事を始めた。
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