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夢幻の中で
楽しき日々

春の暖かい日、東の鬼の家に双子の子が生まれた。


「おお! これは、女鬼ではないか!でかしたぞ!」


「…ありがとうございます。 これで、私のお役目は果たされました…」



鬼の一族では女鬼はなかなか生まれない貴重な存在として重宝されていた。


だからこの度生まれた双子の内、女鬼の方は皆から祝福され大切に大切に扱われた。


けれど一方、男鬼はそのような事がない。 身分に相応しい女鬼を見つけ、自分の血を残す為、常に争いの中にあった。



「これで雪村家も安心ですな。 後継たる男鬼も子を成す女鬼も一度にお生まれになったのだから。」


「お名前はもう決めておられるのですか?」


一族の中で出産に居合わせた者達は口々にそう聞いた。


「ああ。 女鬼は千鶴と言う名前にしようと前々から決めていた。 男鬼は…薫。 そう薫がいい。」


「千鶴に薫ですか。ふふ。よいお名前を頂きました。 これからこの子達の為にさらに一族を豊かにしていかなくてはなりませんね、旦那様」


「そうだな。 とにかく人間共の争いに巻き込まれるのは御免だ。」



この時雪村家は、人間達の戦争に加担するように言われていた。


けれど、鬼には争うなどという考えがない。 だから棟梁である薫と千鶴の父はこの申し出を断っていた。


だからなのか、二人が生まれたその年からその要求は頻度を増し、二人の幼子の知らない所で着々と人間と雪村家との溝が深まっていた。




「ちづるー、はやくー」

「あ…かおるまってえー」


村全体が見下ろせる丘の上に二人はいた。


今年で二歳。 どんどんやんちゃになっていく年頃だ。



「かおるかおる! おはなのかんむりつくって!」


「えへへ、いいよ。つくってあげる」



千鶴にとっていつでも一緒にいる薫は兄でありいい友人だった。


二人は丘や川、そして田と自然溢れる雪村の土地ですくすくと成長していた。




「あの二人の成長が私達の楽しみですね」


「ああ。…だが、あの笑顔をいつまで見れるか…。 百姓の一揆や強奪がここ雪村の土地の近くでも報告されている」


「本当に、怖いものですね…」




「かおるー、まってえ」

「ちづる、はやくはやく!」


丘の花畑で遊ぶ無邪気な子供達を見て大人達は微笑みとそして僅かな危惧を抱いていた。




そして、その時は二人が三歳になった年に突然訪れた。


「人間共が攻めて来たぞー!」

「女と子供達を守れ!」



悲鳴と怒号


穏やかだった雪村の土地に、武器を持った人間が攻め入ってきたのだ。


「千鶴と薫はどこ!?」


「ははさまー!ははさまー!」


「薫! 千鶴も…! よかった。貴方達が無事で… さあ、こっちよ!」


母の手に引かれ、二人は屋敷を裏から逃げ出した。



「奥方様! お子様達は無事でしたか!?」

「義兄様! ええ、無事よ。 千鶴をお願い!早く人間の目の届かない所へ!」


そう言い、千鶴だけを叔父の綱道に預け、薫は母の手に引かれてひたすら走った。



「いたぞ!母親と子どもの鬼だ!」


「…!!」



ただひたすら山を走っていた時、突然怒号が響いてきた。


「…薫、逃げなさい。」

「はは、うえ…」

「さあ!早く!」


そう言うなり鬼本来の姿となった彼女は、人間のいる方にさっと飛んだ。



「…うっ!」


途端に彼女は銃の的となった。


「ははうえ……」


「に、げ…。逃げて!薫ーー!」



その言葉を発したきり、母鬼は動かなくなった。


そして、幼い男鬼は涙を流しながら、千鶴と綱道がいる山の中に向かってひたすら走ったーー



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