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黒檀十字架オラトリオ ーottoー






「あんた、なんでこんなこと受け入れたんだ?」

「こんなこと?」

「・・・・院長に、聞いたんだろ。オレ、ケンカしたりケガさせたり、」

「元気でいいじゃないか。」

「違う!!あんたが思ってるようなのじゃないんだ、自分でもよくわからない、どうにもできないからいつかあんただって、」

「こんなに端っこにある教会ではね、」

「え?」

「訪れる人も少なくてね。静かすぎて困ってしまうんだ。」

「ふ、うん?」

「それにね、ひとりは寂しいじゃないか。」

「オレは平気だ。一人のほうが落ち着く。」

「そうかい?でも、美しいものや楽しいものは誰かと見るに限る。」

「・・・・」

「君がその相手になってくれると、私も助かる。知っているかい?孤独は死に至る病なのだよ。でも、今日は君が来てくれた。これでやっと、今日の私はひとりではなくなった。幸運なことだね。」


「・・・・・・ばかじゃないのか、あんた」










10歳のスザクにとって、その夏は特別な夏だった。


朝起きてから昼までを施設で過ごし、昼食をとってから、町はずれの教会に通う。日の暮れるまでそこで過ごし、夕食前にまた施設に戻る。毎日その繰り返しだった。
夏休みの間だけ解放される市民プールに行くこともあまりできなかったけれど、それでもスザクは毎日楽しかった。



年の近い友達と遊ぶことはあまりなく、それまではひとりでいることが多かったが、スザクはあまり気にしていなかった。
施設の職員や学校の教師は何かにつけてそのことを指摘し、説教をしてきた。それでもそんな忠告を全く無視して、誰と寄り添うこともしなかった。


施設にいた子供たちは、親に虐待を受けて自分の家で生活できなくなった子供や、保護者のいない子ども、何らかの障害があって一般家庭では養育できないような子どもばかりだった。その湿った空気と彼らの馴れ合いにスザクはうんざりしていた。施設の中は、いつでも梅雨のように水っぽい、じめじめと生臭い臭いがした。



そう愚痴るスザクを怒るでもなく、嗤うでもなく、神父はいつも静かに相槌をうってくれた。
そんな、自分にも他人にもどうにもできないことを話して、どうにかして欲しい、とせがみたいのではなかった。
ただ、話を聞いてほしいだけ。

(きっと彼には、それがわかっていた)




だから、教会に通うとはいっても、特別に何を習うことがあったわけではない。
ただひたすら、スザクは神父と話をしていただけだった。時にはスザクの異能について訊かれたり、どのくらいの頻度でどのくらいのことが出来るのか(もしくは起こるのか)を調べてみることもあった。

それでも、神父は今までスザクの異能に関心を持ったどの人とも違ったから、不快に思うことはほとんどなかった。



スザクが話すばかりでなく、神父も色々な話をしてくれた。

易しい日本語で聖書の内容を噛み砕いて話してくれることもあったし、異国のおとぎ話をしてくれることもあった。
外がうだるように暑くても、白亜の教会の中の空気はいつもひんやりと涼しくて心地よかった。
神父の語り口は優しく、低い声は石造りの教会によく響いた。



夏休み中も相変わらずスザクは施設の子どもと衝突し、時には怪我人も出したが、何のためにもうここ半月も教会へ通わせているんだと囁きあうのは施設の職員で、スザクが思ったように行動できなくても、神父はスザクを見放したりはしなかった。

影で神父が職員に色々と言われるのは、なんだか胸がもやもやして、吐き気がしそうなほど腹立たしかった。しかし、暴力はいけない、と再三言われていたので、なんとか抑えた。


スザクは、出来の良い生徒ではなかった。



(あの夏、あの人が僕を真っ先に見捨てていたら、僕に未来はなかった。)






半月もすれば、町外れの教会で過ごす時間は、スザク少年にとってかけがえのないものになった。


やさしいルルーシュに心寄せることは、息をするよりたやすかった。






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