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黒檀十字架オラトリオ ーsetteー








枢木スザクは政治家一族として有名な枢木家の長男として生を受けた。


しかし物心ついたときには両親のもとを離れ、施設で育てられていた。

両親がいなかったとか、家に子供を養育するだけの資金がなかった、というわけではない。
両親は存命で(おそらく今も)、父は著名な政治家であったからテレビをはじめとするメディアで顔を見る機会は何度かあったし、母親は施設を訪れることもあった。
母親に会えるのはやはりうれしかったが、訪問のたびに母がスザクをおびえたような目で様子をうかがうように接することは不快に感じていた。





生家の枢木家のある京都から離れた養護施設に移ったのが六歳のとき、ちょうど小学校に上がる直前だった。




年々回数の減ってきていた母親の訪問は、施設を移ると同時にぴたりと無くなった。さみしくて悲しくて、泣きに泣いた夜もあったけれど、元々一月にあるかないかの訪問であったから、じきに慣れた。



しかし、両親が自分を捨てたのがなぜなのかという疑問だけは、スザク少年の心にしこりを残していた。



けれどその施設で数年を過ごし、学校や施設で自分以外の子供と触れ合ううちに、その理由もわかってきた。

スザクの周りでは次々と奇妙なことが起こり、それはすべてスザクがしていたことだったからだ。眠っている間に部屋の中の机や椅子が動いたり、他の子の部屋が水浸しになったり、小火(ぼや)がでたり。
それも起こるのは決まって、同じ施設の子どもを親が訪ねてきたり、手紙が来たり、そんなことのあった夜だった。



(たぶん僕は、生まれたばかりのころにもそういったポルター・ガイストを起こす子どもだったんだろう。きっと赤子の時には無意識に引き起こしていて、能力のことを忘れていられた数年間は何も起きなかったけれど、思春期になって感情と力が抑えられなくなった)



スザクも子ども心に自分の感情と現象の因果関係を自覚して、事故を起こさないように努めていた。



しかしポルター・ガイストは容易に収まらなかった。



自分で望んでもいないのに、怒りや妬ましさが胸の底から湧き出してくると、どこからか石つぶてが飛んできてその相手にぶつかったりするのだ。施設でも学校でも化け物と呼ばれ、誰もそばに寄ろうとはしなかった。


(まあ、当然だよね。)
当時を思い返して、スザクは思う。




そうした周囲への憤りや両親へのどうしようもない思いはスザクの中で行き場をなくして、暴力によって発散されることが多くなった。乱暴な態度やスザクにまつわる噂は悪化の一途を辿って、ますますスザクの周りには人が寄り付かなくなった。



幸い、養護施設の大人たちはスザクを迫害することはなかった。
院長が敬虔なクリスチャンであったためだ。
十歳になったばかりの夏休み、院長のすすめで、近くの教会にいる外国人神父のもとへ心を落ち着ける術を学ぶようにと通わされることになった。





鄙びた田舎町の端にあるキリスト教教会は、ミサのときに町に数人いるキリスト教信者が通うほかには(時折遊びに来る近所の幼子以外で)あまり人の寄り付かない、静かなところだった。

こぢんまりしたその教会には、院長に紹介してもらった神父が一人だけ。




それが、スザクの生涯の恩師であり父のように慕った男、ルルーシュ・ランペルージだった。



質素な黒い法衣に身を包み、黒檀の十字架を首から下げた男は、耳ざわりの良い声で「ようこそ。はじめまして枢木スザク君。」と日本語で挨拶した。白い肌に黒髪の映える、綺麗な紫色の目をもった美しい人だった。


最初スザクは決して、従順な生徒ではなかった。
しかし神父は辛抱強くスザクを指導し、スザクはこの先人間の社会で生きていくためには、自分の中の制御できない感情を抑え、周囲を驚かせたり傷つけたりするような現象を起こさないようにしなければならない、そのことを理解するようになった。



あの頃、ルルーシュはやっと三十路手が届いたかというほどの若さだったと思う。
現在のスザクとそういくらも変わらぬ年齢であったはずで、教育者でもなかった。
よくもあれだけ乱暴者だった自分を投げ出さずに教育してくれたものだ、と今になっても感謝すると同時に感心する。


ルルーシュが惜しみなく注いでくれたもの、それはまさしく愛だった。

彼は神はどんなものにも至上の愛を注いでいるのだと説いたが、スザク少年にとっては異国の神父ルルーシュこそが神様だった。









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こちらのスザク少年はギアス本編幼少期よりももうちょっと荒んだ性格をしていたと思います。本編スザクさん(10歳)のように尊敬してる父親はいないし、藤堂さんもいなかったしオプションにポルター・ガイストついてくるし。

スザクにとっては、ルルーシュは聖人のような人でした。


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