黒檀十字架オラトリオ ーseiー
通された客間は、やはり屋敷の様式に合わせて、調度品も落ち着いたアンティークで揃えられていた。
魔物の巣窟には似つかわしくない、品の良い内装だ。エントランスもそうだが、これはずぼらな人には手入れが行き届かないだろう。人の目がないのを良いことに、スザクは部屋内を見渡した。
そこへ、扉をコツコツ、と軽くノックする音が聞こえた。
返事をすると扉が開いて、ポットとティーカップ、スコーンを盛った皿をのせたワゴンを引いて部屋へ入って来たのは小柄な少女だった。
紺色のワンピースに白いフリルのエプロン、いわゆるメイド・スタイルとでもいうのだろうか。袖は肩で軽くふくらんで、襟と袖口には糊の利いた純白のカラー。頭にはレエスのヘッドドレスまでつけている。そして腰まで届く紅茶色の髪、白い肌、大きな藤色の瞳。
やわらかに整った容貌は西洋人形のようで、日本人でないことだけは確かだ。ロロは日本語で話しかけてきたが、この少女に日本語は通じるだろうか。それとも英語にした方が?考えるスザクに少女は微笑んで、「失礼します。」と言った。
小鳥のさえずるような愛らしいソプラノの声だ。
「君は・・・・、」
まじまじと少女を見て、その姿に、スザクは目を見開いた。
それに驚いた少女はあわてて弁解する。
「あ、ごめんなさい。ロロだと思いました?さっき、交代してきてしまったんです。
ロロは、お料理は上手なんですけど、お茶を淹れるのは私の方が上手なので、」
だが、スザクが少女に驚いたのは現れたのがロロでなかったからではない。
スザクには、この少女に見覚えがあった。いや、正確にはこの少女によく似た少女に。
「ナナリー・・・・・?」
今度は目の前の少女が目を見開いた。
宝石みたいな藤色の眼が、ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
そのきょとんとした反応を見て、スザクは急に恥ずかしくなった。
(何を言ってるんだ、僕は。この子がナナリーのはずがないじゃないか。だってナナリーは、)
「いや、ごめん、君とよく似た人がいて、」
勢いこんで言い訳を始めたスザクの言葉を、少女がさえぎった。
「わたしのこと、ご存知で・・・?」
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