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黒檀十字架オラトリオ ーquattroー




肉の焦げる臭いに、思わずスザクは腕を引いた。見れば、欠片を握りこんでいる手のひらから少女の手が、ぶすぶすと音を立てながら醜く焼け焦げていっている。

おぞましい光景だが、唾を飲み込んだスザクとは対照的に、少女は余裕有り気に微笑んでいる。
この状況で笑っていられるなどと、感覚中枢の行かれてしまった薬物中毒者か精神病者、いや、やはり目の前にいるのは人間ではない、異形のもの。忌むべき化け物だ。



血の気が引いて動けなくなったスザクを嘲るように笑った魔女は、握りこんだのとは反対の手をスザクに向かって伸ばした。
警戒したが、金縛りにでもあったかのように体はスザクの自由にならず、動かない。己の胸に伸ばされてきた手に、童話にある魔女のように心臓を喰われるのだろうかと思ったが、白い指先は心臓よりも少し下、鳩尾のあたりで揺れるロザリオの十字架に触れた。



(やめろ触るな、それは、)



ほっそりとした指が黒檀の十字架をつう、と撫でる。一瞬、その金色の眼が懐かしむように細められた。それは本当に一瞬で、瞬きの合間に消えてしまったけれど。



(? 今のは、何だ)




ひとつ息を吐くと、C.C.はあっさりと拘束していた手を離し、身を引いた。

途端に体が楽になる。

はっ、はっ、と体全体で忙しく呼吸をする。
どうやら息をしていなかったらしい。体は、先刻まで感じていた恐ろしいまでのプレッシャーの名残で、まだ震えが残っていた。気がつくと、未だロンギヌスの槍の欠片を握ったままの手のひらが、焼けるように熱かった。C.C.を警戒して視界におさめながら、ちらりと確認すると、先ほどのC.C.の手と同じほどまでとはいかないが、スザク自身の手も軽い火傷で炎症を起こしていた。




(本物・・・・だったのか)


修道士である自分に与えられた密命。

「吸血鬼を殺す」という、現実離れした内容と同じだけ何かが胡散臭かった現在の上司である男。
だから、この欠片も聖遺物のレプリカなのではないかと疑っていたのだ。欠片は常にわずかに発光し、発熱してはいたが、聖性を宿したレプリカも少なくない。

そのせいで各地に散った聖遺物の保護や探索、真偽の確認が困難になっているのだが。





強烈な威圧感からの解放に、一気に弛緩しかけた体勢を持ち直しながら、スザクは目の前の少女に再び向き直った。その視線を受けて、C.C.はおもしろくなさそうに口を開いた。


「まあいい。貴様の飼い主の企みどおりに事を運ばせるのは癪だが、結界の張り直しを怠ったこちらの落ち度もある。」

「?」

そう言ってC.C.は踵を反し、もうスザクには一切目もくれずにスタスタとエントランスを抜けて階段へ歩き出した。身構えていたところを、肩透かしをくらうことになったスザクは事態が飲み込めずに顔を顰める。


階段を上り始めたC.C.は、振り向きもせずにエントランスに声をかけた。それまで事態をただ静観していたロロがそれに答える。



「客人だ。茶でも出してやれ、ロロ。」

「うん。C.C.は?」

「寝る。」

「もう。寝すぎて溶けても知らないからね。ピッツァのチーズみたいにドロドロになるよ!」

「チーズか。それもいいな。いっそ寝すぎた人類皆ピザになればいいのに。」

「食べるつもりなの?どんだけ好きなのさ・・・。もう、貴女の理屈はわけがわからな、あ、ちょっと・・・・もう!」


二階へ上がったC.C.はこれで会話は終わりだというようにひらひらと手を振って、角を曲がるとそれきり姿が見えなくなった。しばらくして、扉の閉まる音がした。




ばたん。







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