いち
私立アッシュフォード学園。
中等部から大学部までを同じ敷地内に有する、良家の子女の通う有名校だ。ブリタニアで爵位をもつ貴族が創立したこともあって、ブリタニア人の学生が大半を占めるが、学園自体は日本にあるため、日本人や中華連邦の学生も多くはないが在籍していた。
学園の敷地は広大だ。良家の子女が通うだけあって、設備もセキュリティも最新式のものを取り入れ、しかし広い庭やテラス、カフェテリアはいかにも貴族趣味らしい趣向が凝らされた、優雅な造りになっていた。
で、
その学園の中心に位置する時計塔。
学園の中で最も背の高い建物であるその塔の下、春の陽気な昼休みの空気を切り裂く悲鳴がとどろいたことから、この物語は始まる。
「きゃああああああああああ!!!!」
「誰か!誰か!」
「なんだあの子!?なんであんなところに!」
時計塔の下には人だかりができていた。
お昼休みに中庭に出ていた生徒たちや、彼らの悲鳴を聞いて集まった生徒たちがどやどやと集まってくる。
屋根の上には、一匹の猫。
いや、猫だけならばまだいい。よくある光景だろう。
しかし、問題はもう一匹、いやもう一人の方だった。
明らかに小学生(アッシュフォード学園には中等部より上の生徒しか存在しないはずなのに!)くらいの年齢と思われる子どもが、屋根の上でじりじりと猫ににじり寄っていたのだ。
子どもは必死だった。
その下で子どもと猫を見守る生徒たちの中にはもっと必死な生徒もいた(失神する女性とまで出たのだ)のだが、子どもにはそんなこと関係なかった。
いま立っている場所が地上から何メートルも離れていることだとか、そもそも立つこと自体が危険極まりない行為だとか、そんなことは頭の隅の隅のまた隅に、ちょこっとあるだけだった。
子どもの小さな頭のほとんどを占めていたのは、目の前の猫。
の、その口元。
ようやく追いつめた。
昼休みが始まってからずっと追いかけていたのだ。
絶対に、逃がさない。
「いい子だから、そこで待ってろ・・・・よ!」
じりりとにじり寄って、ついに目的の猫に飛びついた!!
・・・・・・・・・・・と、思ったのだが。
「へ?」
「こら。危ないでしょう。」
体が、飛び上がった状態のまま浮いていた。
目線が高い。
高くなったことで見えた目下の景色に、子どもはパニック状態になった。
「ほわあああああああ!!!!」
「あ、ちょ、まっ、お願いだから暴れないで!!」
屋根の上でジャンプした子どもを、すんでのところでホールドしたのは、アッシュフォード学園高等部の制服を着た少年だった。
「なあになあに?なんなの?・・・・・ってスザク!?と、・・・ルルーシュ!?」
早く早く、と生徒会役員の後輩に引っ張られてきたミレイは、塔を見上げて叫んだ。
塔の屋根の上で闘争を繰り広げている二人は、両方ともミレイの知り合いだった。
「放せー!」
「だから危ないってば!」
「にゃー」
「だって、あの猫!」
「猫は後でいいから!」
「何言ってんだばか!そんなわけあるか!」
「いいから戻るよ!本当に危ないんだってば!」
「にゃー」
「やめろばかーーーー!!」
屋根の上でどたばた暴れている二人を見て、きゃあああ、とか、ひいいい、とかあちこちから悲鳴があがる。
今一番のん気なのは、先ほどまで追いつめられていた当の猫だった。屋根の上で悠々と毛づくろいをはじめてしまっている。人間たちは卒倒したり悲鳴をあげたりどたばた戦ったり忙しいというのに、なんて優雅な。
これ以上は本当に危険だと判断したミレイは、大きく息を吸い込んだ。
そして吐いた。
もう一度吸って、
叫ぶ。
「ちょっとそこの二人!降りてきなさーい!でもスザクはその子離さないことー!!会長命令――!!」
「あ、会長」
「ミレイ!?」
先に少年のほうが下にいるミレイに気づいて、次いで子どものほうも動きを止めた。
子どもを片腕でホールドして、もう片手で屋根についた窓の桟をつかんでいた少年は、子どもの攻撃をモロに受けて、頬をぐいぐい押されていた。地味に痛い。
これ以上屋根の上にいるのは本当に危ないし、人命最優先。
これ救助の鉄則。
目的を果たしたのだから、迅速に行動すべし。
「ええと、会長命令ってことだから。」
少年は子どもを抱えなおして、窓までのぼりだすことにする。
子どもからの攻撃は無視することに決めた。
「えっやだ!やめろってば!はーなーせー!!!」
「無理。これ以上は本当に危ないからね」
「知るか!!放せってばこの!この!!」
「にゃー」
「はいはい、いい子にしてて」
「やめろ!人さらい!へんたい!!」
「ちょっと、変なこと言わないで!!会長命令なんだってば。・・・・・ごめんごめん!あーっ噛まないで!」
「ぐむむむむむむむ」
「にゃー」
「いててててっ」
・・・・・・・・・一体どれが猫なんだ。
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