9 去年の夏にかっちゃんに一目惚れしたオレ。 毛嫌いされてもめげずに付きまとって、友達になれて、去年の冬にかっちゃんに告白して見事に玉砕した。 そんで、今年の春。 諦めきれずに口説いて口説いて口説いて、ようやく成就したオレの片思い。 あの時、「好きだ」って、「かっちゃんだけがこんなみっともねーくらい好きだ」って、そう泣きながら言ったオレ。 今思い出しても、あん時のオレ、相当カッコ悪かっただろうなー。 だけどそんなオレに、かっちゃんは何も言わずに、あの真っ直ぐな目でオレを見て、一回だけ頷いてくれた。 たしかに、かっちゃんはたしかな言葉をくれたこと、一度もない。 だけど、かっちゃんの目はどうだった? いつも真っ直ぐオレを見てくれていなかったか。 かっちゃんは、オレ以外を立ち止まって待ったりしない。 かっちゃんは、オレ以外に抱かれたことなんかない。 かっちゃんは、オレ以外の「好き」って言葉に、頷いたりしない。 「って、!」 「、はぁっ……!」 ガリっと思いっきり舌を噛まれたらしい。 鋭い痛みとともに鉄の味が口の中に広がって、オレは思わず唇を離した。 少し乱れた息をするかっちゃんは、唇が濡れてて最高にやらしい。 ギッと睨んでくる目も、今のオレには愛しくてたまらない。 「ッざっけんなてめえ死ね粗チン野郎!」 「粗チンて……オレの息子のスゴさはかっちゃんが一番よく知っていたたたたたごめんなさい痛いって足潰れる!」 「痛いとか言いながら笑ってんじゃねえか、ドMかてめえ!」 だって、ねえ。 ニヤニヤと顔が笑うのを自覚してたら、するりとかっちゃんに逃げられてしまった。 あ、くそ、逃げられた。腰砕けになるくらいスゴいの、やってやればよかった。 そんなことを思ってると、オレを不審そうに見ていたかっちゃんが、はー……とため息をつく。 「……なんなんだよ、お前…さっきまで、泣いたりキレたりしてたくせに……」 「いきなりニヤニヤ笑いやがって、意味わかんねえ」とぼそりと呟いたかっちゃん。 うん、オレも自分でそう思う。 でもオレ、単純な上に気分屋だからね。 「かっちゃんのあんな強烈な口説き文句聞いたら、そりゃニヤニヤもするよ」 「………いつ俺が口説いた」 「あらやだ、かっちゃんたら無自覚?」 「その口調うぜえ」 シリアスモードも甘々モードも続かないオレら。 だけどこんなに二人で過ごす時間が居心地良いのは、つまり、そういうことなんだろ? 「かっちゃん、ハグミー」 「………はあ?」 「ハグミー、はぐ、みー。ハグして、今ここで」 「……んなこと、」 「頼むよ」 今までのオレはかっちゃんのことになると余裕なくて、いつもどっかで不安だった。 だから気付けなかった。かっちゃんがどんだけ態度で伝えてくれてるか。 馬鹿だよなあ、なんで気付かなかったんだろう。 不安になる必要なんか、なんもねーのに。 「………ワガママ野郎」 オレがどうしても!、のワガママ言う時は、仕方ねえなって顔で笑って、叶えてくれる。 「かっちゃん、好きだあー」 「……うるせぇよ、くそったれ」 オレが好きって言うだけで、かっちゃんはこんな優しい声で、笑ってくれる。 そのことに、いつの間にかオレ、慣れすぎて気付かなかったみてー。 オレは不器用にぎゅってしてくれてるかっちゃんの背中に、腕を回した。 「かっちゃん、マジで男前。ヤバイよオレ、現在進行形ですごいキュンキュンしてんもん。やっべーなー、こんなん可愛い受けの反応じゃん」 「……」 「あー、ヤバい。たまんねーよ。かっちゃん、かっちゃんかっちゃんかっちゃん」 「うっせえって」 すぐそばに感じる鼓動、呼吸、体温、全部ゼンブぜーんぶ! オレだけのもんなんだぜ、オレだけがこうして抱き合うことを許されてる。 それってまるで、奇跡みてーなことじゃんな? 「……、オレ、元カレさんに嫉妬した」 「知ってる」 「好きだとか、言われてたんだなって思って、……初恋だとか、悔しくて」 「それも知ってる」 「お前、馬鹿だもんな?」って意地悪そうにクツクツ笑うかっちゃん。 なんか楽しそう。 馬鹿で悪かったですね。 「かっちゃんの中で、オレとあの人、どっちが理想なんだろーとかさあ……」 思ったり、してさ。 かっちゃん程じゃねーけど高いプライドをどっかに捨ててきて、オレはかっちゃんの肩に頭を擦り付けて、呟いた。 かっちゃんはそんなオレの背中を優しく叩きながら、少し黙ってから、笑みをのせた意地悪そうな声で言う。 「……そりゃあ、理想はあの人だろ」 「、はあ!?」 「年上だし、うるさくねえし、甘やかしてくれるし」 「ちょ……何それぇ!?」 「だけど」 オレは思わず、かっちゃんから少し体を離して、かっちゃんの顔を睨んだ。 だって、そこは嘘でも「お前が一番だ」くらい言うんじゃねーの!? そう言いかけたオレの見てる前で、かっちゃんは、悪戯っ子みたいな笑顔を、浮かべて。 「一緒にいてすっげー楽しいって思うのは、お前だけ」 「………ほんっと、ズリィ……ッ」 「年に一度の出血大サービスだ。……顔が赤いぜ、ヤスヒロくん」 普段、ほとんどツンしか見せないかっちゃんの、初めて見るまともなデレは、思っていた以上に殺傷能力抜群だった。 この寒い中、自分でもわかるくらいに顔が熱を持っている。 つかなにその笑顔、かわいすぎ……! 「かっちゃん好き愛してる!」って叫んで抱きつきたかったけど、抱きつくより早くかっちゃんがオレから離れてしまう。 そしてオレが落とした鞄をひょいっと拾いあげた時には、もう元の仏頂面に戻っていた。 「……またくだらねーことで泣いたりしたら、蹴り飛ばすからな」 ふん、と鼻で笑うかっちゃん。マジで男前すぎるっしょ! 思わず頬が緩む。 うん、もー大丈夫。 「かっちゃんの愛、相当強く感じたから!」 それにオレ、思い出したから。 だけどそれは言わずに、歩き出したかっちゃんの横に並んで、歩く。 同じ歩幅が嬉しい。 「そういや、かっちゃん」 「あ?」 「すっげーオレら、目立ってたな!」 「………あえて考えねえように考えねえようにしてることに気付けよ、この脳タリン」 「……な、かっちゃん! 走ってこっから逃げようぜ?」 「ハア? 何言って、っちょ、引っ張んな!」 「愛の逃避行ー!」 「黙れ離せすげぇ見られてんだろーがッ!」 「今さら今さらぁ!」 その手を無理矢理引いて、冬のはじめの夜道を二人で走り出す。 なんだかんだいって握りかえしてくれるその手が、ただ愛しかった。 * * * * * * オレがかっちゃんに告白するより前、ただの友達だった頃。 昼休みに東校舎の裏の木陰で一緒に飯を食ってた時。 かわいい女の子に告白されたかっちゃんに、なんとなくこう聞いたことがある。 (もちろん、ゲイなかっちゃんは断ってたけど) 『かっちゃんは、好きな人には好きって言うタイプ?』 ちなみに俺は、ガンガン言うタイプなんだけど。 その言葉に、かっちゃんは苦虫を潰したような表情で、「絶対言えねえ」と答えた。 なんでなんでとしつこく聞いたら、かっちゃんはめんどくさそうに、言ったんだ。 『前の人と、色々あってよ。……本当に大切なら大切なほど、多分俺には好きだなんて言えねえな』 前の人ってのが、あの元カレさんだとは知らなかったけど。 かっちゃんとあの人の間になにがあったのかも、知らないけど。 だけどそれって、『好き』ってオレが言ってもらえねーってことは、今かっちゃんにとって、オレがそんだけ大切ってことだろ? 好きって言葉も言えねーくらい、オレが好きってことだよな? オレは、腐男子でホモと妄想大好き、女の子大好きな自己チュー野郎。 だけどかっちゃんだけはオレ以外の男との妄想したくねーし。 かっちゃんだけは男だとか関係なく大好きだし。 かっちゃんのワガママだけはなんだって聞いちまう。 かっちゃんはゲイのタチで、プライド高くて、超俺様野郎。 だけどオレだけにはやったこともないネコやってくれるし。 どうしても!のワガママは聞いてくれるし。 好きだ、なんて簡単に言えないくらい、オレを思ってくれてる。 これが愛じゃなくてなんだっつーの? オレはかっちゃんだけ、かっちゃんはオレだけがトクベツ。 不安がってたオレ、マジで馬鹿みてー! 「は……ッな、かっちゃん?」 「ん、だよ」 「オレら、まさにバカップルだなー!」 「うっせえっつってんだろ……ッ!」 かっちゃん、好きだ! 高いプライドも俺様なとこも素直じゃなさすぎるとこも、笑顔も怒った顔も真っ直ぐな目も繋いだ手のぬくもりも、全部ゼンブぜーんぶ大好きだ! ぜーんぶオレだけのもんで、オレの愛のすべてだ! Only LOVE! (君だけに、僕だけに、たったひとつの愛を!) 厚見さま、遅くなって申し訳ありません…! やっとこさ書き終わりました! バカップル甘々…に…なってますかね…?笑 ご希望のものと違う仕上がりになっていましたら申し訳ありません、ご容赦下さい…! ヤスヒロ×克也です、一応。 克也は元カレと付き合っていた時まだ精神的にかなり子供だったので、好きとかそういう言葉は言ったもん勝ちだと思ってて、言ってないと元カレさんを捕まえておけないと思ってて、言いまくっていたのです。 その結果、好きって言葉の重みがすり減ってしまって、ペラペラの言葉になってしまった。 それが原因で元カレさんに好きって言葉を信じてもらえなくなって別れた。 という経験から、好きとか言えなくなってるという裏設定← 克也は昔のことをあまり話すタイプではないので、あえてヤスはその事情を知らないかんじで話を書きました。 あとがきにこんな解説書いてすいません笑 それでは、厚見さまリクエストありがとうございました! 大変お待たせ致しまして申し訳ありません! 2010.12.25 ←短編小説へ [戻る] |