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何を言われたのかわけわかんねーで、オレは固まる。
え、……え?
今なんつった?
長ネギの塩ラーメン?
……え? なんでこの流れで、そうなんの? なんなのアホなの?

つかこいつオレの話聞いてたわけ?つかそんなに好きならもう一杯食ってこいよ、つか――マジもう、意味わかんねー。


「な、……っんだよソレ……ふざけてんの、」


思わず、吐き捨てるように自嘲まじりに呟きながら、かっちゃんを見据えた。
だけどオレを見るかっちゃんの目は、いつもとあの日とおんなじで、真っ直ぐで。
かっちゃんは、オレから目を反らすこともなく、静かにいつもと同じ仏頂面で、言葉を続ける。


「東校舎の裏の木陰、駅前の喫茶店の裏メニュー、真冬のプールの冷たさ」


かっちゃんの声は、いつもより不機嫌そう。
だけど、言葉は全部、文句じゃなくて。
かっちゃんは、少しだけ目を細めて、オレを見る。
だけど、睨まれたわけじゃ、なくて。


「……全部お前と知り合ってから、知ったもんだろ」
「、え?」
「お前と知り合わなきゃ、俺は多分、一生知ることもなかった。知らずにいた」
「……かっちゃ、」
「黙ってろ」


ソレって、どーいう意味?
そう聞こうとしたオレを、かっちゃんはピシャリと黙らせた。
「今は俺が話してんだろうが」とでも言いたげな顔されたら、こんな時でも結局かっちゃん至上主義なオレには、黙るって選択肢しかねー。

黙ったオレを一瞥し、かっちゃんは、ゆっくりと一度、瞼を下ろす。
数秒そのまんまじっとして、それからまたゆっくりと、目を開ける。
コートの上でよく見せた、かっちゃんの癖。
その瞼の下にはいつも、オレの大好きな目をしたかっちゃんが、いる。


「……俺はよォ、」


ゆっくり話すかっちゃんの声がいつもより優しいのは、なんでだ?
あんな暴言吐きまくったのに。
いつものかっちゃんなら、ぶちギレて冷たく一瞥してさっさと帰ってるとこじゃねーの?


「そういうもんを知ったことを、すっっっげー不本意だが、嬉しいと思ってる。知れてよかったなんて、思ってんだよ」
「……………え……」


今、……今、なんつった?
さっきとは違う意味で、呆気にとられるオレ。

知れて、嬉しい? 良かった?
オレと知り合ってから知ったことを、ものを?

……ちょい、ちょっと待って、待って。頭がついてかねー。
なあ、それって、どーゆー意味?なあかっちゃん、オレ頭わりィから、わかんねーよ。


「それじゃ、ダメなのかよ」


こんがらかってショート寸前、なのに声でそれが出せないオレに、かっちゃんは少し低い声でそう言って。
ダメって、なにが。そんなこと言うより早く、かっちゃんが、大きく舌打ち。
慌てたオレに言えたのは、


「意味、わかんね、」


って。これだけ。
あ、やばいって思うと同時に、さっきまでの穏やかさが嘘みたく、「ヤスヒロ! テメーっ」ってかっちゃんが叫んで。


「かっ、う゛ぐ!?」


びっくりして固まるオレの胸に、思いっきり投げつけられた、かっちゃんの重い鞄。
ちょ、今息とまった! つか痛! つか、いきなり何すんだよ!
そのどれもまた口には出せず、オレは情けなく鞄ごと胸を抱いて、ゴホゴホと咳き込んだ。


「っちょ、……ったん、まっ」


だけどそんなオレにも、かっちゃんは容赦はない。
つかつかと歩み寄ってきて、うずくまるオレを無理矢理立たせて、壁に背中を押し付けられた。
ちょ、マジで苦しいってかっちゃんの馬鹿力!


「なめんじゃねえぞテメー」


なんでそんな、怒ってんの?
怒ってたのオレだよな?
それに、なんでそんな、悲しそうな目すんの?
隠したって無駄だっつの、わかっちまうもん。
くだらねーとか言われて泣いたのもオレだよな?

なのに、なんで。


「かっちゃ、ん」
「……っんで、わかんねえんだ」


そう一人言みたく、絞り出すような声で言ったかっちゃんは、オレを強く、睨み付けた。
そんで、人目も憚らずに、大声で言ったんだ。


「この俺がなんとも思ってねえ奴のためになんかに、やったこともねえネコやれると思うのかよこの腐れ腐男子!」


その場が、一瞬固まった。
ちなみに言うけど、さっき泣いたオレにかっちゃんが言ったとおり、ここは駅の近くで結構な人がいる。
しかも今は帰宅ラッシュの時間帯。

固まってから、ホモの痴話喧嘩だって理解して、気まずそうに目を反らし通りすぎる人が半分。
ネコ? なんの喧嘩? って興味津々にチラ見しながら通りすぎる人が半分。


かっちゃん、見られてるよ。
ラーメン屋で隅っこの席に逃げるくらい注目されるの苦手なくせに、なんで。
そう思いながらさっきっからのかっちゃんの言動をリピートして、今目の前でオレを睨んでるかっちゃんに、ああ、って思う。

オレ、やっぱ馬鹿だな。


「……は、はは…これ以上、腐れないっての……」


思わず、頬が緩んで笑ってしまった。
自分への呆れが50パーセント、嬉しさが120パーセント。
(パーセンテージおかしいとか、そんなんどうでもいいんだって)


「なに、笑って……ッ」


抱いていたかっちゃんの鞄から、両手を離す。
ボス、と音をたてて地面に落ちる鞄。
ごめんねかっちゃん、でも今は鞄よりかっちゃんだろ?

自由になった手で胸ぐら掴んでるかっちゃんの両頬を包んで、驚いてるかっちゃんが暴れださないうちに、キスをした。


「………ッヤ、」


オレを呼ぼうとしたかっちゃんを少し黙らせたくて、舌を無理矢理ねじこんだ。
あー……、なんだ今の、「ヤ」ってやばい。かわいい。興奮する。
オレを思いっきり睨み付けるかっちゃん。
「やめろ」って? やだよ、やめない。


今までの自分がガラッと変わっちまうくらい好きで好きで好きでどうしようもねー奴に、こんな強烈な「トクベツ」発言されたら、歯止めなんかきくわけねーじゃん?

























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あきゅろす。
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