3 かっちゃんが職員室に用があるっつーから寄りつつ、さっき見た野球部の夫婦とサッカー部のカップル、それについて熱く語りながら(オレが一方的に)、玄関を出る。 外はもう、薄暗い。 空は一部を残して深い青に染まりつつあって、そこにかすかに光る小さな星が、すごく神秘的だ。 さっきまでグラウンドで練習に励んでいた部活は、どこもすでにミーティングや片付けに入ってる。 「つかなんなの、何であんな運動部って至近距離るの? 萌えるんですけどハアハアハア」 「至近距離る、なんて動詞はねーし、真顔でハアハアすんな」 大体、部活やってりゃ当たり前だろ。俺だって至近距離るわ。 そう笑うかっちゃんに、うっかりオレは萌えて抱きついてしまった。 「ぅおっ、なんだよ!?」 「〜〜っかっちゃん可愛い……!」 「はあ!?」 だ、だって、だってこの子今「至近距離る」って言ったのよ!? 直前に自分で「そんな言葉ねーよ」ってオレに突っ込んだくせに! あのかっちゃんが! ……これは俺、萌えちゃうって…! (え? 萌えポイントがわかんない?) (、そんなん萌えるのオレだけ?) (わかってるわかってる、つかその方が嬉しいよ!) (だってかっちゃんの可愛いとこなんて、他の奴に知られたくねーもーん!) 「っなせ馬鹿! 触んな!」 「いって!」 愛が高まりすぎて、ぎゅうぎゅう抱きしめすぎたみたい。 殴られて離した時には、かっちゃんはうっすら涙目だった(そーいやオレ、馬鹿力らしいね)。 ……か、かわいい。 「ってめ、マジ、自分の馬鹿力考えろ! つか、TPO! TPO考えろ! マジ、……っりえね……っ」 「ごーめんかっちゃん! かっちゃんがあまりに俺的に可愛すぎてさあ!」 「、……ッ死ね!」 「いっ……!」 ゴっ、と脛を蹴られて、オレは患部を押さえて地面に膝をついた。 そんなオレに目もくれず、かっちゃんは大股で歩き出す。 「かっちゃ〜ん……」 い、痛い。ぜってー手加減しなかっただろ、かっちゃん……! たしかに人がまだいる校庭で抱き締めたのは悪かったけどさ! 何この仕打ち! うー、いってぇ。唸りながら顔を上げる。 すると。 5メートルくらい先で、かっちゃんが不機嫌そうな顔で、こっちを振り返ってた。 それだけで、痛みが吹き飛んでいったのがわかった。 思わず、盛大に顔がにやけた。 「……かっちゃんこそ、自分の脚力考えろよなあっ」 「……っせ。今のはてめえが悪い」 すぐ立ち上がって駆け寄って、二人で並んで歩き出す。 かっちゃんは本当に心底嫌だったらもっと抵抗するし。 本当に怒ってたらもっと殴って再起不能にするし。 それに、オレ以外のことは、立ち止まって待ったりしない。 ………ふふふ。 ちょっとユーエツカン。 「かっちゃんてツンデレっつーか、ツンツンツンツンツンツンデレ、くらいだよなー」 「は? つん……何?」 「なんでもなーい」 「つかラーメン食いてえ」 ……もーちょっと食いついてきて欲しかったカナー。かっちゃんのイケズ! まー今は練習後だから、食いもんのことしか頭にないんだろーけど。 (ちなみにそんなかっちゃんも可愛いとか思っちゃう、健気なボクですけど!) 「んーじゃ、今日はラーメン屋にする?」 「ん」 頷いて、練習で上がってた体温が下がって寒くなってきたのか、鞄からマフラーを取り出して、首に巻くかっちゃん。 校門を出るあたりでデッッカイ声で玄関にいる後輩たちに「克也先輩!!」呼び止められて、機嫌良さそうに「じゃーな」って返してた。 それにまたハアハアして抱きついて、さっきより痛い足蹴りを食らったけど、気にしない! ← [戻る] |