1 放課後の教室は、オレンジ色の夕日に染まっていた。 時刻はPM.5:30。 授業が終わってもう二時間以上経った校舎内にはもう、ほとんど人気がないだろう。 そのかわり、開け放たれた窓の向こうの校庭では、運動部員たちが部活動に励んでる。 「……さっみー」 ゆらゆら揺れるカーテンを視界の端に捉えながら、オレはクラスメイトの机に軽く腰かけたまま、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。 だけどそれだけじゃまだ寒くて、オレは肩を竦めてぶるりと一つ身震い。 こんな寒ィのは秋っつーかもう冬の風のせいなんだけど、それでも窓を閉めないのは、放課後のこの喧騒が好きだからだ。 カッキーン、と爽快な耳に心地よい音につられるように、オレはまた、校庭を見下ろした。 うちの高校の校庭は、馬鹿みてーに広い。 一番オレのいる校舎よりで練習してんのは、野球部。 その奥はソフト部で、その間にはネットが張られてる。 んで、フェンスで囲まれたその一番広いグラウンドの周りを陸上部が走ってて、隣のグラウンドにはサッカー部。 この校舎の裏のテニスコートではテニス部が部活やってるはずだし、その隣の体育館では一階ではバスケ部、二階ではバレー部が練習してるはずだ。 「ナイバッチー!」 「ドンマイドンマイ!」 「――ストウ!」 「はい!」 野球部の捕手が、打たれた投手に駆け寄ってってる。 すげー緊張感。遠目からでもわかるわ。 そういや、うちのクラスの田中(引退したけど元野球部だ)が野球部は今度なんかの大会あるっつってたっけか。 投手としちゃ、そんな時に部内の奴にでもイイトコに打たれたくはねえよな。 あ、今、捕手が投手の肩叩いた。 グローブはめたまんま。 あれかっけーよなあ……超青春!って感じ。 「…………バッテリー、かあ」 バッテリーって……… ………夫婦だよなあ。 「………あ、やべ、うっかりくそ萌えた」 だ、だって夫婦だぜ!? しかもうちの野球部のバッテリー超オレ好みだし!! オレ的には捕手×投手だな。うん。 うちの野球部、捕手すげー男前だし先輩(2年)だし、投手すげー生意気そーな顔の後輩(1年)だし! こりゃあもう男前先輩×強気後輩で王道でいいと思うんだな! あー、高校球児、萌え。 ちなみにうちのクラスの元野球部の田中は、爽やかなのにお馬鹿なイケメンだから攻めでいいよ。 「でもなー……サッカー部も捨てがたいんだよなあ……」 ちらっと目を移した先には、声掛け合いながら練習に励むサッカー部員たち。 野球部の白い長ズボンのユニフォームもいいけど、サッカー部のハーフパンツもたまんねえぜじゅるり。 「てンめー森下ァっ! そんくらいのパスこぼしてんじゃねえよ寝てんのかテメー!」 「次はちゃんと受けますよ!」 「出来なかったらグラウンド20周だからな!」 「松本先輩の鬼!!」 とくにあそこねあそこ! 隣のクラスの松本(オレと同じ3年で、けっこう有名な選手らしい。引退してからも後輩の指導にいってる。大学もサッカーで決まってるとか)と、こないだの大会でMVPとった2年の森下くん。ちなみに両方イケメン。 オレあそこはもーガチで出来てると思うんだよね! ドS男前先輩×ヘタレわんこなドM後輩な感じで! ……とか思ってたらキャッホーイ至近距離キタコレ!!松本×森下ですかわかりますけしからんもっとやれ! やっべえわー、ホモ万歳! これだから放課後はたまんねえぜ。寒くても窓なんて閉めれるかよもったいない!! 「BLは、この世のオアシスだ」 真剣に言ってるのよオレ! 腐男子のオレにとってBLはなくてはならない存在、言うなれば渇いた砂漠に潤いを与えるオアシスなのさ……! 「……っと、」 やっぱ王道が一番だよねー、とかニヤニヤしながら笑ってたオレの目に、2人の女の子の姿が入る。 陸上部のマネージャーかな? 多分後輩だ。 2人してちらちらオレのいる窓の方……つかぶっちゃけオレを見てる。 それに気付いたオレは、さっと笑顔を対女の子用に切り換えて、ひらひら手を振った。 途端、赤面してペコペコしながら視線を反らす2人。 ………かっっわいいわー。 「……右の子の方がタイプかな」 左の子も相当かわいいけど、ゴージャス系で少し気が強そう。 右の子は見るからにおっとりしてる癒し系美少女。 背も小さめで、守ってあげたくなる。オレの好みド真ん中だ。 今すぐにでもナンパしてきたいくらいに。 (オレ腐男子だけど、ノンケなんだよね! 女の子大好き!) だけど、今のオレは、そんなことはしませんヨ? だって、 「ヤス」 2時間も帰りを待ってた人がいるからね!! (ちなみにオレ、待つの大っ嫌いなの) (普通なら精々待って15分が限界) ← [戻る] |