14 森下の腕が、痛いくらい俺を締め付ける。 それにすら抗議の声も上げられないくらい、ただ、頭がガンガンと痛かった。 「絶対に、アンタを傷付けたくなかったんだ……っだけど傷付けるしかなかった、どうすりゃいいのかわかんなくて……ッ」 森下の言ってる意味が、わからない。 頭が、痛い。 「ミキがアンタのこと好きなのも、アンタが俺のこと好きなのも、全部わかってたから、……ミキが好きだなんて、嘘ついて……ッ」 ごめん、ごめん、傷付けたのは俺の方なんだ、ごめん。 そう謝る森下の言葉が、すべて通りすぎていく。 それなのに、その言葉は胸に、錘のように重く沈んでいった。 その重さに、止まっていた涙が、溢れる。 「………う、そ……?」 うそ。うそ、……嘘? 佐上が好きなのだと切なく笑ったお前は。 想いのあまりに歪んでいった悲しいくらい一途なお前は。 今までの、お前は、全部? 「嘘、だったのか……?」 それなら、お前は今まで、一体何のために? (俺は、今まで、何のために、) 「な、んで、……なんで、そんな嘘……っ」 「ごめん……ごめんね、先輩……っ」 「――っ!」 かあ、と、頭に血がのぼった。 何を考える間もなく、俺は森下を突き離し、殴り付けていた。 「っふざけんな……ッ!」 ドサ、と、森下が倒れる。 俺を見上げるその目からは涙、その口元には、赤い、血。 「ごめんじゃねえだろ、わけわかんねえ……、っわけわかんねえよお前!」 森下を殴り付けた手が、痛かった。 今までのすべてを否定されたような、踏みにじられたような気持ちだった。 「……っせん」 「なに? 知ってたって。嘘だったってなんだよ? ……お前、佐上が好きだって泣きそうな顔して笑ったじゃねえかよ……!」 何のために。何のために。何のために、そんな嘘。 わけがわからなくて、佐上の泣き顔がちらついて、森下の涙に胸が痛んで、壊れそうだった。 なんで、どうして、そればかり、繰り返す。 だって。 これじゃあ誰も、誰一人、報われないじゃないか。 「……嘘、だよ、先輩」 「……なんでだよ……っなんで、なんで!」 森下の顔が、またくしゃりと、歪んだ。 森下は尻餅をついていた体を、ぐぐ、と腕を震わせながら、上体を起こす。 俺は涙を抑えることも出来ず、ただ森下を睨み付けた。 「………嘘なんだ」 森下の手が、ゆっくりと、俺に伸びてくる。 小刻みに震える手。 また、抱き締められるのだろうか、(愛しい)お前のその手に。 懺悔のためだけの、俺の想いを知った上での抱擁。 そんなもの いらない、のに。 「……っ……?」 「……本当は」 けれど、俺の考えとは裏腹に、森下の手は、俺を引き寄せ抱き締めるのではなく、俺の指先にうすく触れただけだった。 驚いて、びく、と体が跳ねる。 そんな俺に構うことなく、森下は、俺の手を(まるで祈るように)、優しく、両手で、包んで。 「本当は、」 ――ずっとずっと、森下が好きだった。 柔らかな笑顔が、俺を呼ぶ声が、少し高い体温が、その不器用な一途さが好きだった。 森下が誰を想っていても関係なくて、その誰かと幸せになれるなら、俺も報われると思っていた。 叶わない想いを、何度も何度も繰り返し、諦めようと忘れようと消そうとした。 けど、出来なくて。 好きで好きで好きで好きで、たまらなくて。 こいつになら何でもしてやれるくらい。それくらい、森下が、 「本当は、ずっと、松本先輩が――……」 すき 、だっ、 た、? 「…………え……?」 ← [戻る] |