「……気持ち悪ィよな、こんなこと、男に言われたってよ」


森下は、何も言わなかった。
それがあいつの心中を、俺に悟らせてしまった。
は、とまた緩く笑い直して、痛みを誤魔化す。


「愛もないのに良いように抱かれて、それでもまだ、こんな、……お前が好きだなんて」


望みなんて最初からなかった。
それでも、ずっと好きで、今も、想いを捨てられないで。


「お前の好きって言葉が、自分に向けられたもんだったら、なんて、ありえねーこと考えて、……っ」


ず、と鼻をすすった。
涙がとまらない。これ以上森下にこんな姿見せたくなくて、俺は俯いた。


「……もどり、たい……もう、堪えらんねえよ……」


もう叶わないことくらい、わかってる。
心地よかったあの関係に、もう戻れっこないことくらい。
だって俺は、森下に言ってしまった。伝えてしまった。ずっと隠してきた、想いを。
前の関係に戻ることを本当に強く望むなら、絶対に、言ってはいけなかったのに。


「……せん、ぱ」


森下の声が、今までになく揺れている。
傷付いたような、懺悔するような、そんな震えを抱いて。
その震えに、俺の涙腺を塞ごうとしていた何かが、溢れ出た涙と一緒に、流れ落ちた。


「……っごめん……！」


洪水のように、涙が溢れる。
それを止めようとは、もう俺には思えなかった。


「せんぱい？」
「傷付けてごめん、苦しめてごめん、……好きになったりして、ごめんな……ッ」


掌で両目を覆って、なんとか涙を隠す。
ずっと、謝りたかった。
男の俺が、お前を好きになってしまったことを。
だって、それがすべての、元凶だろう？


「ごめん、……ごめん、森下……っ！」
『松本先輩』


俺がお前を好きになったりしなければ、きっとお前は、。
(あのままの笑顔の、ままで、)


「ごめん……ごめん、ほんとに、ごめ……ッ」
「……せん、ぱい」
「ぅ……っ、……ッ」
「……松本先輩」


森下が、小さく小さく、俺を呼ぶ。
あの時と、同じ声。あの日、初めて森下が泣いた時と。
聞いてる方が辛くなるような声なのに、俺にはけれど、それに応えて顔を上げることは出来なかった。


「先輩」
「……ッ！？」


俯いたままの俺の体を、突然、あつい何かが包んだ。
覚えのある温度。覚えがありすぎて、すぐにそれがなんなのかわかった。
だから、困惑する。

なんで。


「……も、り、」
「先輩、……っごめん、ごめんね……？」
「……、……」


なに、が、？


「本当、は……気付いてたんだ……、っ気付いてたのに、あんな……ッ」
「、？」


俺の肩に顔を埋めながら、いつのまにか、森下は泣いていた。
けれど、俺には。
森下の、嗚咽、の意味が……わからない。


(なんで？)
(なんで、俺を、森下は、)


「先輩の気持ち、知ってたんだ……！」
「――」


その言葉と、同時。
、目の前が、真っ白に、なった。
焦点が合わない。何も、考え、られない。

今、――今、森下は、気付いてた、と、言ったのか？
気付いてた？知っていた？


俺が、ひた隠しにしてきた、想いを？


「知ってて、怖くて、……嘘吐いてたんだ、ずっと……っごめん…！」






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