11 馬鹿だな、と思う。 こんな顔を、するなら。こんな辛そうに、するなら。 俺との関係なんか早々に切って、佐上に想いを告げればいいのに。 そう、思った。 「……森下」 だから俺は、唾を飲み込んで、一度目を伏せてから、笑った。 さっきまで渦巻いていた泣き出したいような衝動は、消えていた。 優しく呼んでみれば、森下は、あの日と同じように、顔を歪める。 「……な、に」 ああ、お前のこんな、少し困惑したような声ですら、こんなに愛しい。 お前の暗い歪みですら。 ずっとずっと、言い出すことはない想いだけど。 「もう、やめようぜ」 なあ、好きだ。お前が、好きだよ。 「こんな関係、もう、終わりにしよう」 だから、どうか、幸せになってほしいんだ。 俺のやっと吐き出した答えに、森下は、何も言わなかった。 ただ、目を見張って、食い入るように俺を見てる。 俺は、胸の軋みをおさえながら、続けた。 「この2週間何もなかったってことは、もうお前もそのつもりなのかもしんねえけど」 「……」 「一応、俺からもいっとかなきゃと思ってよ……、」 そう言って、笑おうとした。 だけど、思いの外胸の軋みがひどくて、俺は不自然に口角をあげ、そのイビツさに気付いてすぐに唇を結び直す。 森下は、何も言わない。 ただ、その唇が震えている。 「……お前と佐上には、悪いことしたって、本当に思ってんだ」 俺のエゴのせいで、森下を傷付けた。佐上を傷付けた。 「だからその分、これからは佐上とのこと、協力するから。……だから、佐上に真っ直ぐ向き合えよ」 あんなことしてたって、何一つ手に入らない。前にも進めない。 そうなるべく真っ直ぐに森下を、見つめる。 揺れた目を見ているのは、ひどく、辛かったけれど。 「……」 「……森下」 森下が、ふい、と目を反らす。 少し咎めるように呼べば、固く結ばれる唇。 逃げるなよ。 そう想いをこめて、もう一度呼ぶ。森下。 「……それ、……って、」 それに応えるように、森下が、小さく小さく、ゆっくりと言う。俺は、黙ってそれを聞いた。 森下は、またゆっくりと、俺を見る。 その表情に、息がつまった。 「も、り、……」 「……俺のこと……嫌いに、なったから……?」 「――」 何、を。何を、言ってんだ、こいつは。 そんなこと、ありえねーのに。 それなのに、森下は、今にも泣き出しそうな小さな子供のような表情でそう言って、縋るみたいに、俺を見つめた。 「ねえ、……だから、なの?」 「……何、言って」 「だって言ったじゃん!」 揺れた声で、それをあの日とは違い、隠しもしないで、言われる。 何言ってんだよ、そう言いかけた俺の言葉を遮り、森下はまた深く俯いた。その表情は、今度は、見えない。 「……俺のこと、嫌いだって。そう、言ったじゃんかよ……っ」 「――」 『きらいだ……っ』 森下の言葉に、あの日俺が吐いた嘘が、蘇った。 ← [戻る] |