2 「はっ……ぐ、んん……ぅ、んッ」 「っは……」 俺は、必死で腕に歯をたてて声を殺す。 ナカを、森下が、我が物顔で犯している。 ただそれに耐えて、込み上げる想いを見ないフリをしたくて、目を閉じた。 いつものことだ。もう慣れた。 こうして、森下に気が済むまで犯されることにも。 「……っミ、キ、……ミキ……っ」 こうして森下に抱かれながら、森下の想い人の名を、呼ばれることにも。 「……出そ……っ」 「はっ、は、……っん、カズ……ッ」 いつものことだ。もう慣れた。 慣れたから、だからこうやって、森下が想う彼女と同じように、森下を呼べる。 躊躇いなんかない。胸の軋みなんか、感じない。 (、だって、) 「っ……!」 「ぁっ、っつ、……っんんッ!」 だって、痛みを感じたって、いくら苦しくたって、切なくても。 「っミキ……!」 俺の犯した過ちは、消えない。 俺には、森下の“ミキ”には、なれない。 「んっ、ぁ――……っ!」 真っ暗だった目の前が、真っ白になる。 その白の中で、森下が笑う。 前みてえに、無邪気に、楽しそうに。 「っく……」 最奥で、森下が果てる。 広がる熱。終わりを告げる熱。だけど、終われない。 白の中の森下が、霧散して、目の前で消えてなくなった。 ああ、もう、思い出の中でさえ、戻れねーんだ。 そうして俺は、現実を、叩きつけられる。 「好、き……っ」 熱い吐息とともに溢れた言葉。それは決して、俺に向けられたものじゃあ、ないのに。 俺には森下の体は熱くて、ナカに広がる熱は熱くて、森下の言葉は、あまりに熱くて、熱くて。 (す、き、) 俺は、口に出さないように唇を噛みしめながら、何度も胸の奥で繰り返す。 (好き、) (好きだ、) いっそのこと、と思う。 いっそのこと、森下への想いなんか忘れて、森下を嫌っちまえたらと。 だけど。 (こんな関係に、なっても) (、もり、した) 好きだ。好きなんだ、森下。 (もりした) お前には、俺の想いは、届かなくても。 * * * * * * 朝の爽やかな光で、目を覚ます。 昨日カーテンを閉めないまま寝たらしい。遮るもののない日光は、寝起きにはかなり眩しかった。 俺は目を細めながら、ゆっくり上体を起こす。その動作をする際に、体に違和感はない。 「……夢か」 安堵して、はあ、と1つ息を吐く。 嫌な夢。嫌な夢を、見た。ただそれだけのこと。 自分にそう言い聞かせ、俺はベッドから降りる。 ふと、間抜けにも下半身を見下ろした。 やっぱり、つうか当然、朝勃ちはしてなかった。 それに安堵して、でもなんかやりきれないような気持ちになって、俺はまたベッドに座りこむ。 「くそ、……」 ← [戻る] |