ずっと、好きだった。 『先輩』 曇りのない、柔らかく笑うその笑顔が、好きだった。 『松本先輩』 俺を呼ぶ、少し頼りないその声が、好きだった。 『せんぱい』 ――ただ、森下が、好きだった。 偏執ラプソディー 「っあ……く、ぅっ」 自分の喘ぐ声が、嫌でも耳につく。 女のように高いわけでもないそれに吐き気がして、俺は必死に声を殺した。 こんな低い男の声で喘がれても、森下は不快なだけだろうから。 だけど声を殺すのは辛くて、堪えるように俺はソファに爪をたてた。 ガリリ、と嫌な音がする。多分、爪の跡がついたんだろう。 はあはあと荒い息を繰り返す俺の後ろから、あーあ、と楽しそうな声が追ってくる。 「まぁたそうやって、爪の跡つけてー」 これ気に入ってるんだけどー? そう声で笑う森下に苛立って、俺は首だけ何とか振り返った。 そこで森下が、嘲笑うように笑ってる。 「ったら、ここで、す、んじゃね……っ」 ソファでヤるのは嫌いだ。 ベッドのようには広くない中で無理矢理に体を割り開かれ、その分いつもは触れ合わない距離まで、体が密着するから。 (いや、そもそもこいつとヤること自体が嫌い、なんだが) だからそう抗議するのに、あいつはちっとも聞いちゃいねー。 「よっ、と」 「ひっ……んァアっ」 俺の腰を抱え直した森下が、そのまま腰を揺らしながら押し込んできた。 最奥を抉るように突かれ、体が仰け反る。 ガリリ、また、嫌な音。 「ほらまたぁ」 森下が、笑う。嘲笑う。 こんな関係になるまで、知ることのなかった表情。仕草。言動。 ズキズキと体中が痛んだ。 「耐えきれないくらい気持ちいいの? ……本当にどうしようもないね、先輩」 「ゃっ……だま、ぁ……っ」 気持ち良くなんかねえよ、馬鹿。 体は反応していたとして、それは生理的な反応でしかなくて、そこに俺の気持ちは全く比例しない。 気持ち悪い。苦しい。ただ、いたい。 だけど森下の触れたとこは無条件に熱くて、涙が滲みそうになる。 「っ……締めすぎ……」 息を詰めるような、森下の声。 その直後、余裕がなくなってきたのか、それまで悪戯に動くだけだった腰が、はっきりと律動を始めた。 ああ、もう、つらい。 ← [戻る] |