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「お、れ、……きたねー、よ?」


ヨシノに縋りつきながら、俺は言った。
臆病な俺は、まだ、ヨシノの言葉を、信じきれないから。
だけど、信じたいんだ。
出来るなら、こうやって、縋りつきたいと思ってる。
俺は、そんな人間だ。
それでも、お前は俺を想ってくれんの?
ヨシノは答えた。


「汚れてたとして、それがなんなん? 綺麗やなきゃあかんこと、あらへんやろ」
「……俺、我儘だし」
「そんなん今更やんか」
「……お前、付き合ったら、後悔するかも」
「せえへん。絶対せえへん。一緒におれたら、何があっても、俺は幸せやから」
「……っ」


ヨシノの言葉が、俺の中のぐちゃぐちゃな部分を、綺麗に癒していく。
ああ、信じていいんだ。そう思ったら、また涙がこぼれた。
こんなにあったけー涙を流したこと、多分俺、一度もなかったよ。


「……ワカツキ……」


ヨシノの手が、少し躊躇いがちに、俺の髪を撫でる。
髪に何か温かいものが触れて、俺は顔をあげた。
優しい、少し濡れたヨシノの目。
ヨシノは俺を見つめて、微笑んだ。
見たことのなかったその表情に、心臓が鷲掴みにされたみたいに、息がしづらくなる。


「好きや、ワカツキ」


柔らかで愛しいその音に、俺はそっと目を閉じた。
その瞼に、優しく触れるだけのキス。
心の底でずっとずっと恋焦がれたその温もりに、また、涙が零れた。


「、……ヨシノ……」


好きだよ、すっげー好き。ずっと、お前が好きだった!
零れる気持ちは何一つ言葉にならなくて、縋るように、何度も俺はヨシノを心の中で呼んだ。
きゅ、とヨシノの服を掴む手に力がこもる。
その布越しの体温さえ優しくて、まるで全身で想いを伝えられてるみたいだ、と思った。


「……ワカツキ」


ヨシノが俺を呼ぶ。その声に、ゆっくりと俺は瞼を開けた。
ヨシノは、また、真っ直ぐに俺を見つめていた。


「俺は、この先何があっても、お前を裏切ったり出来へん」
「……ッ」
「せやから、……俺、お前のそばにおっても、ええか?」
「……っ、…っ」


ああ、こんなこと、あっていーんかな。
俺も、幸せになっていーんかな。
ヨシノの手を、取っていいんだろうか。
何が正しくて何が間違ってて、どうすることが最良であるのか、俺には、まだわからない。
だけど、多分、


「……いろよ……」


冷たい指先。真っ直ぐな瞳。不器用な優しさ。綺麗なこころ。
ヨシノのすべてが、こんなにも、愛しく思えるから。


「そばに、いてくれ……」


だからきっと、この行く末がどこであっても、後悔は、しないんだろう。
俺を愛してくれたヤツだから。
俺が愛したヤツだから。
だから、きっと、ずっと。


「ワカツキ」


ヨシノの唇が、ゆっくり額に触れる。
まだ涙の止まらない俺に、ヨシノはまた困ったように笑って。


「好きや、ワカツキ」


ヨシノの腕が、俺を抱き締める。
今まで抱かれたどんな男の腕の中より、そこは温かくて。
こんな俺を思ってくれるヨシノを、やっぱり誰よりも愛しい、と、そう思った。


「……おれ、も」


照れくさくて、幸せすぎて怖くて、それしか言えなかった。
ぎゅっとヨシノに抱きしめられて、自分からも抱きついて、距離がゼロになったように感じた。
ヨシノの部屋の窓から見える空は少しだけ白んできていて、雨はすっかり、上がっていた。


「……ずっと」


ヨシノの手が、ゆっくり俺の髪を梳く。
ヨシノは、優しく笑った。
幸せすぎて涙が止まらない俺を、優しく笑った。


「ずっと、お前のそばにおるから」


そしてまた、優しく額に触れる、薄い唇。
ヨシノの触れ方は、なんだか透きとおった誓いみてーだなあ、と思ったら、また、泣けた。


「しあわせ、だなあ」


ぽつりとつぶやいた。
もっともっと、幸せになれるんやで。
そう言ったヨシノが愛しくて、俺たちはずっと、あたたかい部屋の中で、抱き合っていた。
そばにあるこのぬくもりを、失いたくないと、強く、願った。





なあ、ヨシノ。俺きっと、もうありのままで生きられるよ。
何かを犠牲にしてまで、愛を求めないで生きていける。
自分を傷付けることも、きっと、やめられる。
少しずつでも、俺は変わっていけるよ。

お前がいるから。お前が、無償の愛をくれたから。
お前がそばにいてくれたら、きっと、お前みたいに強くなれる。


だから、だからさ、



だからずっとずっと、そばにいて。










Stand by me.
(どうか、ずっと、はなさないで、)




やっとこさ終わりました!すたんどばいみー!!
リスカの描写とかあってごめんなさい。
本文中に適切でない表現がありますが、リスカをしている方を差別する意図はまったくありません。ご理解ください。

もしかしたら、この作品は後から加筆修正をするかもしれません。
ラストがイマイチでしたので…(汗)
この作品は、すごく皆様に応援していただきました。
本当にありがとうございます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!










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