別に、そうすることで快感を得てるわけじゃなくて。
別に、可哀想、な自分に酔ってるわけじゃなくて。
別に、死にたいわけじゃ、なくて。
ただなんとなく、ほんとになんとなく、俺は俺の手首を深く傷付けた。
そうすれば、なんでだろう、なにもかも、すべてを許される気がした。
Stand by me.
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「課題やってこいよー」と言いながら教室を出ていく教師は、まだ比較的若くて、でも堂々としているからか、生徒に人気の高いやつ。
「ばいばいセンセー」とか、そんな声が聞こえる中で、俺は一人自分の席で伸びをした。
「ワカーっ」
クラスメイトが、そう俺を呼んだ。
呼びながら、俺に近付いてくる。
俺は、笑った。
「ワカワカーっ」
「んだよー?」
「鬱陶しー」と言いながら、戯れてくるヤツに問う。
何やら興奮してるらしい。
嬉しそうに抱きつくもんだから、周りの女子の一部がきゃあっと黄色い悲鳴をあげた。
そんなことに気付きもしないで、当の本人は俺に言う。
「なあなあっ今日緑女と合コンなんだ合コン! もち、ワカも行くよな!」
「……あー」
合コン、すか。
多分こいつは、俺がいつもそういった類のものには必ずと言っていいほど顔を出すから、今回も行くと思っているんだろう。
俺としても、男としてここは行っておきたい。
(だって緑女っつったらお嬢様の通う美人が多いって噂の女子高だ!)
だけど。
「わり。今日先約」
だから行けねー。
そう緩く笑ってみせると、クラスメイトたちは、非難の声をあげた。
「行けねえの!?」
「うっそ、ワカが来るっつって誘ったのに!」
「マジかよ!」
「だー、悪いって。つか本人に了承とってから言えよなー」
「俺は君たちと違って暇じゃないのー」、そう言えば、また女かよ!と嘆かれる。
いや、それお前らと一緒に行動してもどっちみち女ってことになるけどな?
「ま、楽しんでこいよ。俺も楽しんでくるからさ?」
「〜〜……っうぜー! こいつうぜーっ!」
「顔がいいからって!」
「なんで世の中の女はこいつに騙されるんだ……!」
「騙すって、人聞きの悪い」
ただ一夜限りの甘い関係を持たせていただいてるだけデス。
そう微笑めば(俺の悩殺スマイルで)、奴らは少し赤くなって黙ってしまった。
チョロい。
「じゃ、また明日な。土産話聞かせろよ」
固まったままの奴らにそう言って、俺は早々に席を立った。
「じゃあなー」と言いながら、教室を出る。
教室の中から、我に返った奴らの声が追ってきたけど、無視。
足早に俺は、玄関へとむかった。
――はやく、はやく行きたかった。
実感を錯覚をくれる場所に。
はやく欲しかった。
錯覚でもいい。
、っていう、その実感、が。
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