6 「好きなんでしょ、先輩、男に抱かれるの」 思ってもないことが、口から飛び出す。 何で俺っていつも、こうなのかなあ。 「俺以外に、何人の男に抱かれてんの?」 先輩の目が、真ん丸くなる。傷付いたような表情。 あの時初めてアンタを犯したとき以来かな、こんな表情、みるの。 「淫乱」 ……わかってるよ、先輩。先輩が、俺が好きだから俺に抱かれてるって。 他の男となんて、ありえないって。 わかってるよ、わかってるけど。 「……っ!」 「っ」 頬に、鈍い痛みが走る。 先輩の力が変わらず強かったせいなのか、視界が揺れた。 ゆっくり何も感じないまま先輩の方を見れば、先輩は、 泣き出しそうな顔をして、いる。 「……痛いじゃん」 それに少し動揺したのを悟られたくなくて、俺は冷たい声で先輩にそういっていた。 すると、先輩は、ぐにゃり、と、その端整な顔を、ゆがめて。 涙を、こぼし た、 。 「……いだ、」 初めて見るその涙に、俺は息を飲み、言葉をなくした。 (だって行為中も、初めてのときでさえ、彼は、それを零しはしなかった、) 先輩は、涙を零しながら、弱弱しく、何もいえなくなった俺に、言う。 「きら、いだ、お前なんか……っ」 「――」 「きらいだ、しね、……きらいだ……っ」 嫌いだ。 そう言いながら泣く彼は、すごく痛々しくて、その言葉は、酷く痛くて。 嫌われて当然、嫌われるためにやってたような行為なのに、……いたくて。 「黙れよ」 「っんん……!?」 思わず、唇を塞いでいた。 黙らせたくて、嫌いだなんてそんな言葉、聞きたくなくて。 今まで絶対キスだけはしなかったのに、しないって決めてたのに、それはあまりにもあっさり、破られた。 「っ、ふ、……ゃ、は……んんっ」 嫌だ、そう言うように、先輩は俺の肩を押し返してくる。 けど、やめなかった。やめれなかった。 今までなら先輩が拒否したらやめたけど、出来なかったんだ。 (せん、ぱい、) だって、聞きたくないよ。 (まつもと、せんぱい、) 嫌い、だなんて。 「……っ」 乱暴にねじ込んだ舌に、突然鋭い痛みが走った。 唇を離すと、赤い色が混じった銀の糸が、俺と先輩を繋いで、でも、すぐに切れる。 その光景になんだかやりきれない気持ちになった。 荒い息を繰り返してた先輩が、涙をやっぱり零しながら、呆然とする俺を睨む。 「っんで、こんなことすんだよ……!」 それはきっと、今のキスに対してだけじゃなくて。 俺は、答えない。答えられない。 「わけわかんねえよ、俺にどうしろっつーんだよ、俺をどうしてえんだよ……っ」 言えるわけねーじゃん、そんなの今更。 俺のこと嫌ってよ、憎んでよ、嫌わないでよ、好きでいてよ。 俺だって、わけ、わかんねーよ。 嫌われなきゃいけないのも、離れなきゃいけないのも、わかってる。 けど、本当は嫌われたくないんだ、離れたくないんだ、だって。 (だって、) だって俺、本当はずっと、好きだったんだ。 ← [戻る] |