1 たいせつなものほど、俺はいつも、こわしてしまうから。 「ん、……ぁ、っ」 俺の下で、先輩が、甘い声をあげる。 押し殺されたそれはどう聞いても男のものなのに、俺は異様なほど、興奮していた。 乱暴に突き上げてみると、白い喉元を晒しながら、彼は大きく体を仰け反らせたけれど、やっぱり声は一度短く漏らしただけで、それ以上は、無理矢理唇を噛んで押し殺していた。 何度体を重ねても、必ずそうだ。 彼は、その声を、極力殺そうとする。 「っ、……気持ちい……?」 耳元で低く囁くと、ぶるりと体を震わせる先輩。 ぎゅっと固く目を閉ざし、目を開けると、俺を睨みつけてきた。 (あ、その顔、すき、) 「んっ、は……し、ね……っ」 「………違うデショ?」 「あ、ッく……!」 可愛くないことを言う先輩のイイトコロを、思い切り抉りあげる。 それでも声を殺す先輩に、俺は小さく笑った。 「“気持ちいい”、でしょ?」 「っ、……!」 「ね?」と優しく笑えば、先輩は一瞬――本当に一瞬だけ、辛そうな顔をする。 その表情に、俺の中のどこかが大きな軋みを上げた気がしたけど、気付かないふりをした。 先輩のその表情もすぐに消えてしまったし、不快な軋みも、すぐにどこかに流れたから。 先輩は、誰にも男前だと評されるその顔を快楽に染めて、熱っぽい目で、俺を見た。 そして、 「カズ……っ」 熱い吐息で、そう、俺を、“呼んだ”。 「カズ、……っ、気持ち、い……っ」 「……イイコ」 俺の言うことを聞いて、きっと言いたくないだろうことを言う先輩。 自然と少し、眉が寄る。 それを隠すように、優しく先輩の髪に口付けて、それと裏腹に、優しさの欠片もない律動で、彼を揺さぶった。 「っ、ちょ、馬鹿ッ、はや、い……! ンっ、は、っ!」 「……っ」 彼の抗議なんて聞かない。 彼の声自体聞きたくなくて、でも唇を塞ぐことは俺には出来なくて、俺はただ、この行為に没頭し、目を閉じた。 早く、早く、早く。 「っ、カズ、カズ……んん、ん、っ」 相も変わらず押し殺された声に、さっきよりも甘い色がまじって、俺は彼の絶頂が近いことを悟った。 カズ、そう彼が喘ぐ度、何かが、 (何かが、俺の中で、音をたてて、) 「ッ、あっ、…っう、く……!」 … 内壁がきゅう、と収縮し、俺自身を締め付ける。その熱くてきつい締め付けに、自然と腰が早くなる。 彼の絶頂も、そして当然、俺の絶頂も近くて、俺は促すように、最奥を突き上げた。 「ぁ、――ッ!」 先輩が小さく喘ぎながら、達する。 そのひどく煽情的な表情に煽られて、また限界がぐっと近付いた。 彼が迎えた絶頂によってさらにしめつけがきつくなって。 目の前が、白く染まっていく。 「せ、……っ」 達しそうになった瞬間、先輩――思わずそう、彼を呼びそうになった。 その声を無理矢理飲み込んで、俺は、呼ぶ。 いつものように、彼を、傷つけるために。 「、ミキ……!」 「――……っ!」 彼の体が、その名前に強張った。 けれど俺は、全く気付かないふりをして。 呼ぶと同時に、彼の中で、そのまま達した。 ( 、) 本当に呼びたかった人の名は、呼べないままに。 呼べないなまえ ← [戻る] |