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07



「大体てめェは初めっから気に食わなかったんだ。客の前じゃ猫被りやがって」
「奇遇だな、俺もだ。お客様に対する礼儀も何も知らないお前の尻拭いを、俺が何度させられたか教えてやろうか」

「二人とも、落ち着けって。周りがビビってる」
「邪魔すんなヘイスケ」
「今日こそこの馬鹿の根性叩き直してやる」


そうしてる間にも、激しくなる口論。
とは言ってもお互い声を荒げたりはしないのだが、それが余計に周りの恐怖を煽る。
本当に困ったように平輔が言っても、ここまで来たら効果はなかった。


「お前らも楽しんでないで止めろよ」


頼むから、と眉を下げて連夜と葵を振り返る平輔。
その間にも、周りのホストからの「どうにかしてください」と言いたげな視線が彼に降り注いでいる。
だが、連夜と葵は、揃って満面の笑みを浮かべ、言った。


「「やだよ、楽しいし」」
「……毎度のことながら、お前らに助けを求めた俺が馬鹿だったよ…」


思わず、盛大なため息をついた。
二つの派閥のトップ二人の口論はだんだんと下らない方向に走りつつあるし。
その一つの派閥のNO.2は可愛い顔してドSだし。
中立の派閥のトップである隣で笑っている親友は、愉快犯だし。

年のわりにしっかりしてると言われるのはこいつせいだ、と思う今日この頃である。


(…もうほっときたい…)


切実にそう思うが、先ほども言ったとおり、そんなことが彼に出来るはずもなく。
とりあえずまだ聞き分けのいい希一をどうにかしよう、と、希一に呼び掛けた時だった。


「ユウキさぁあああああんんん!!!」


店内どころか近隣の店にも響くほどの大声。
大声というよりはむしろ悲鳴で、今にも泣きそうな声だ。
店内のホストたちは一瞬あまりの大声に意識を覚醒させるが、いつもの出来事なので、なるべく気にしないようにまた目を閉じる。

大部分が、ポケットから耳栓を取り出すのを忘れずに。


「うわぁああッユウキさぁあん!」
「っぐえッ」


不機嫌なまま振り返った祐希に、全速力で走ってきた男が勢いよく抱きつく。
タックルされた祐希は、衝撃に苦しげに呻いた。


「てめ、いってェよ馬鹿がッ!」
「う゛ぅう〜っユウキざぁああ」
「ぐッ…っ締め付けんなくっつくな鼻水つけんな…っ!」


怒りを露にする祐希の言葉も、今の彼には効果がない。
それどころか自慢の怪力でぎゅうぎゅうと抱きつかれ、祐希は今にも口から何かを出しそうだ。
それに困ったように笑いながらも、平輔は安堵の息をついた。
祐希と希一の口論は一時休戦になったようだから。


「どうしたのヒジキちゃんっ!」


いい笑顔で問う葵。
希一や平輔、連夜にも声をかけられ、祐希に抱きついたままだった青年が、一瞬泣き止んで、顔をあげた。



青年、ヒジキこと、鶴田聖(彼の源氏名は、ヒジキではなくヒジリである)は、一言で言うならば爽やかな好青年である。

痛み知らずの黒髪は短くさっぱりと切られ、ワックスで整えているだけ。
目はたれ目で、笑うとさらに情けなく目尻が下がるところが可愛いと大評判だ。
高校を卒業してまだ1年も経っていないせいか、まだどこかあどけなく、そこがイイ、との声も多数ある。

性格は純真で、単純で、無鉄砲で、おおよそホストには向いていないような人物である。
だがそんなところがまた新鮮らしく、入店したてですぐに今のNO.6という座に落ち着いた。

本人は知らないが、他の多くのホストとは違い、恋人営業ではなく友達営業で、自然体で客に接するというところも人気の秘密だ。


(恋人営業とは、恋人のように客に接することで、友達営業とは友達のように客に接することである)






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あきゅろす。
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