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06



「八方美人?この仕事をしてる以上、すべてのお客様に同じように接するのは当然のことだろう」


すかさず、希一も言い返す。
葵が後ろで「やれーっ」とかなんとか言っているのが聞こえた。
淡々と希一が己のポリシーを訴えれば、祐希はそれを鼻で笑った。


「はッ。さすがNO.1ホスト殿はちげえな」


明らかに、皮肉である。
しかし希一はそれに気付かないふりをして、便乗した。


「当たり前だ。お前とはやる気が違うからな」


負けじと同じように鼻で笑えば、祐希の表情が更に不愉快そうに歪む。
希一にしてみれば、言い争う度にそんな表情をするなら、何故いちいち突っかかってくるのだ、と言いたいところだが。
祐希は、軽蔑したような声色、表情で、更に言い返す。


「女を喰いモンにするやる気がかよ?ずいぶんご立派なこった」
「…それがこの仕事だ」


祐希の言葉に、一瞬希一の中の良心が痛む。
けれど、希一はその痛みをすぐに押し殺す。

そして、女を喰いモノにしてるのは、この店の全員、お前も同じだろ、そう言外に含ませて、祐希を見た。
その視線に含まれる意味に気付かないほど、彼は鈍くはなく、嫌悪感丸出しで舌打ちをする。
図星を指された時に舌打ちするのは、祐希の悪い癖だ。


「俺はてめェとは違…」
「はいはい、そこまで」


けれど、まだ言い返そうと口を開く祐希の言葉を、平輔が遮る。


「……邪魔すんじゃねえよ、ヘイスケ」
「お前らこそ、毎度毎度喧嘩ばっかするなよ」


苦笑しながらのその言葉は、彼が言うと反発心を掻き立てない。
寝てる奴もいるんだぞ、と小声で平輔が言うと、希一と祐希は揃って気まずそうに目を泳がせる。
薄れた険悪な雰囲気に、平輔は苦笑を深めた。


たしかに営業を終えたばかりの店内には、疲れはてて眠っている人間が多くいる。
そういった人間には、今の自分たちの喧嘩はさぞ迷惑だろう。
立場が立場だから、言えないだけで。
そう思うと、毎度のことながら、希一は申し訳なさに眉を寄せた。

祐希も自分と同じ表情を浮かべていることには、気付きもせずに。


「…悪かった」
「…悪ィ」


そして、二人の謝罪が重なる。
綺麗に同じタイミングである。
二人は思わず顔を見合せ、そのタイミングまでも同時で、途端、一旦薄れていた雰囲気が、色濃く蘇る。
マズイ、と思い、平輔はフォローに回ろうとした。
しかし、その前に。


「すっごい、息ピッタリ!」
「なんだかんだ言っても、キイチとユウキは気が合うんだねェ」


にこにこと害なく笑いながら、二人の逆鱗に触れる葵と連夜。
このドSコンビが…!と頭を抱えながら、平輔はドS二人を叱る。
けれど、その間に。


「てめェ…俺に被せて同じこと言ってんじゃねえよ」
「こっちの台詞だ。お前のせいで、不愉快極まりない誤解を持たれた。弁解してきやがれ」
「はあ?どう考えてもてめェのせいだろうが、てめェが行けよ」
「俺のせいにするな。元はと言えば、突っかかってきたお前が悪いんだろ」
「んだとてめェ…」


子供じみた言い争いは、再び勃発していた。
なんで毎度こうなるんだ、と頭が痛くなる。
だが、元来面倒見のいい平輔には、喧嘩を放置することは出来ない。
それが余計、葵や連夜を楽しませてしまっているのだが。

しかし平輔自身は、そんなこと知る由もない。







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