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05



『PRAYER』には、珍しい制度がある。
2ヶ月に1度だけ、カップリング営業という名の営業をするのだ。


『PRAYER』のホストたちは、3つの派閥に別れている。
希一、連夜、それからNO.3ホストのユウキ(本名、氷室 祐希)をそれぞれトップとするものである。
カップリング営業とは、その名のとおり、その3つの派閥のうち2つの派閥のトップ5名が、2人組を作り接客にあたるというものだ。

ちなみに、選ばれた2つの派閥のそれぞれトップは相手の派閥のトップと、2位は相手の派閥の2位とカップリングをする。


そして、今回のカップリプリング営業で選ばれたのは、希一をトップとするキイチ派、それから、祐希をトップとするユウキ派なのである。



「連夜も葵も、わざとだろう…」
「何のことかな?」
「わかんないなあ」


ニコニコと笑いながら答える悪魔、かける2。
悪いキイチ、と希一の肩を叩く平輔を他所に、疲労がドッと押し寄せてきたのを感じていた。


祐希は、希一と同じ20歳だ。
彼はワイルドな魅力を持つかなりの男前だが、いつも仏頂面をしている。
その上、口が悪く口下手で我が儘で、本来ならNO.3など有り得ないような男だ。
しかし、そんな中で祐希にはふと見せる優しさがあるらしく、特に歳上の女性に大変人気が高かった。
生意気で可愛い、とか不器用なところがイイ、と評判だ。

実際そうなのであろう。
ホストたちの中にも、祐希を慕う者は多い。
だがしかし、どうも希一は彼が苦手だった。
というのも、


「てめェら何してやがんだ?」


祐希は何故か希一を目の敵にしており、こうして事あるごと…いや、事がなくても、希一に突っかかってくるからだ。


「お疲れ、ユウキ」


平輔が変わらない笑顔でそう声をかける。
希一の隣では、葵が楽しそうに祐希を呼んでいる。
そして、連夜は。


「噂をすればなんとやら、だね」


しかも、ね?といやに可愛く希一に同意を求めてくる。


「噂?」


勿論、そこを見逃すような祐希ではない。
鋭い視線を希一に向けながら、近付いてくる。
希一は小さくため息をついた。
そして、ゆっくり背後を振りかえる。


「連夜、お前なあ…っ」
「だってあの二人のやり取りは楽しいじゃないか」


ちなみに、その後ろで小声で二人がそんな会話をしていたのを、希一は知らない。


「おいてめェ、噂って何だよ、あ?」


今の祐希は、いつもよりさらに眉間に皺が寄っており、声も低い。
見るからに不機嫌である。
祐希の鋭い視線が、希一を射抜く。
しかし、黙って射抜かれているような希一ではなかった。


「明日のカップリングが俺たちとお前たちだって話をしていただけだ。変に勘ぐるな」


淡々と返しながらも、その目は先ほどまでの穏やかなものではない。

希一は元来落ち着いた性格なのだが、どうにも祐希とはとことんウマがあわないらしい。
突っかかられる度についこうして言い返してしまうのだ。
そこから言い争いが発展していき、最終的に相手を言い負かすか誰かに仲介されない限り、収集のつかないことになってしまうのは最早いつものことだった。

最も、お互い言われて黙っている性格ではないので、相手を言い負かす、なんて状況になったことは今まで一度もないのだが。


「カップリングだあ?」


希一の返答に、祐希のこめかみがピクリと震える。
どうやら、彼も嫌なことを思い出したらしい。


「…言っとくが、俺はてめェと協力する気なんざ毛頭ねえからな」


低い声で吐き捨てるように告げられた言葉に、今度は希一がこめかみをひくつかせた。
彼にしては珍しく不愉快を隠しもせず、顔を歪める。


「それは全く構わないが、絶対に前のようにお客様と揉めて俺の邪魔だけはするなよ。迷惑だ」


希一がこう言うのには、わけがある。

以前カップリングを組んだ際、祐希は客の機嫌を損ね、口論に発展させてしまったのだ。
結局その時には、カップリングを組んでいた希一がその場の収集をつける羽目になった。

そんな希一の鋭い視線を、祐希は鼻で笑う。


「てめェこそ、前みてーに客に取り合いの取っ組み合いさせんじゃねえぞ、八方美人が」


祐希のこの言葉の背景にも、やはり以前のカップリング営業の際の事件がある。

祐希の一件と同じ時に、二人のテーブルにいた希一贔屓の客と他のテーブルの希一の上客が、希一を巡って取っ組み合いを始めてしまったのである。
その時は、希一と祐希が珍しく協力し、最早痛客となった二人を店から摘まみ出して、その場を治めたのだが。

(痛客とは、お金を払わなかったり店内で暴れたりする迷惑な客のことである)








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あきゅろす。
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