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04



「それはそうと、きいっちゃん、またNO.1だねっおめでとー!」


ニコニコと笑いながら、葵は話を変えた。
どうせ何を言っても、希一は無自覚なのだ。
自覚がない以上、言っても無駄だから。

そんな葵の言葉に、嬉しそうに、けれど困ったように笑う希一。
仕事の時に見せる洗練された笑顔もいいけれど、素のきいっちゃんのこの笑顔の方が好きだな、と葵は思った。


「ありがとう」


お客様に感謝しないとな、と言う希一はどこまでも謙虚で、葵は笑った。


希一は、『PRAYER』創立当初からこの店で働いている。
当時17歳だった彼は、17歳とは思えない大人びた雰囲気と巧みな話術で、一気に人気NO.1ホストへと駆け上がった。
時折見せるあどけない表情に心奪われた者も少なくはないだろう。

一昨年、昨年と続き、現NO.2とNO.3、NO.5、NO.6が一気に店に入ったが、その時彼はすでに不動の地位を作り上げていた。


そして今も、彼は人気NO.1ホストとして、店のホストたちの上に君臨し続けている。



「でも、レンレンとは300万以上の差だもんねえ。スゴいスゴいっ」


葵の言うレンレンとは、NO.2ホストのレンのことである。
本名は、橘 連夜という。
穏やかな性格でいつも笑顔だが、どこかミステリアスな雰囲気を醸し出しており、どこぞの国の王子のような容姿をしている。
年齢は、若年21歳。『PRAYER』に入ってまだ1年である。


「今日はたまたま太客がたくさん来てくれただけ」


よしよしと椅子に上がってまで希一の頭を撫でる葵の言葉に、希一はクスクスと笑っていた。
アオイだって今日は売り上げ伸びてたろ?と言って、椅子に乗ってやっと希一より少し高いだけの葵の頭を逆に撫でた。


「うん、今日は新規さん二人増えたしねっ」


ユウキっちは越せなかったけどねぇ、と無邪気に笑い、葵は椅子から飛び降りた。
希一は、柔らかく笑う。


「だけど、新規のお客様が二人も増えたんだろ?スゴいことじゃないか」


頑張ろうな、と希一が言うと、葵は可愛らしく笑い、それに応えた。
今日一番の笑顔だな、と思い希一はまた笑う。
和やかな雰囲気が漂った。


「なんだか和やかだねぇ」


その時、その場にこれまた和やかな声が届いた。
振り向けば、そこには仲睦まじく並ぶ、NO.2とNO.6の姿。


「レン、ヘイスケ」
「レンレン!ヘイちゃん!お疲れえっ」


二人もお疲れ、と微笑む連夜は、気品があり本当に王子のようだ。
その横でありがとう、お疲れさま、と穏やかに笑うヘイスケこと本名、篠原 平輔は、華やかな美形ではないが、人柄の良さが滲み出た優しい顔つきをしている。


二人は中学からの知り合いらしく、その仲は親密だ。
平輔は昨年、連夜と一緒に『PRAYER』に入ってきた。
優しく面倒見のいい性格で、今ではホストたちの頼れるお兄さんである。


「キイチ、なんだかいつもより少し疲れてるんじゃないか?」


平輔が、希一の顔色を見てそう心配そうに言う。
本当にこの人は兄貴肌というかおかん体質だな、と思いながら、希一は苦笑した。
いつもより疲れてるのは多少自覚があり、普段頼られる立場の自分が甘えられる唯一の存在である平輔を前にして、隠していたそれが多少出てしまったのにも自覚があった。


「少しだけ」
「今日は指名いつもに増して多かったもんなあ。ゆっくり休めよ?」
「ああ。ありがとう」


ふ、と笑う希一を見て、近くにいたヘルプのホストが顔を赤らめたのは、葵だけが知ることであろう。


「なんだ」


和やかな雰囲気が続く4人の中で、不意に連夜が口を開いた。


「僕はてっきり、明日のカップリングを思って気が重いのかと思ったんだけどねぇ」


残念、勘が外れたね、と全く残念そうでない笑顔で言う連夜。
その言葉に、嫌な現実を思いだし、希一は表情を強張らせた。


「連夜」
「なんだい?平輔」


咎めるように平輔が連夜を呼ぶ。
しかしそんな平輔の努力はどこ吹く風。自由気儘な連夜は、それをかわしにっこりと笑った。


「あーっそういえば、明日のカップリングはユウキっちたちとだっけえ!」


そしてそれは、葵にも言えることだった。
連夜がぼかしながら言った言葉を葵ははっきりしたものに変え、実に楽しそうに笑うのだ。
この天然ドSが、と希一はげんなりした様子でこめかみを押さえた。






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あきゅろす。
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