テメェがあの日俺に手渡した、サヨナラの言葉が、今も。
「……、來」
微睡みの中で、誰かが俺を呼んでいる。
覚醒してねえ意識じゃ、それが誰なのかは識別出来ねえ。
一瞬浮上しかけた意識が、またゆっくり、沈んでく。
「おい、來、起きろ」
………五月蝿ェ。俺に声かけんな起こすな揺すんな、触んなクソッタレ。
誰だか知らねえがほっとけよ俺はまだ眠ィんだ。
心ん中で散々悪態ついてたら、軽快な音とともに、閉じてた世界に光が入り込んできやがった。
眩しさに意識は覚醒、苛々しながら、うっすらと、目を開ける。
「やっと起きたかよ、寝坊助」
その視界いっぱいに広がる、光と、金色の髪の男の顔。
(あーそういや昨日は、こいつと)
「ぐっ」
「……きたねー顔近付けてんじゃねえよ、気色悪ィ」
俺に覆い被さってやがった男の腹を一蹴りし、上から退かせた。
「わぶ!」奇声を上げベッドから落ちた男を鼻で笑って、俺はゆっくりと体を起こす。
ベッド脇のカーテンの開けられた窓の外には、見慣れた町の朝。
「ってェなてめーっ! 人が起こしてやったのに何だその態度はよ!!」
「五月蝿ェ……頼んだ覚えはねえ」
「……っと、かわいくねー野郎だな!」
「今更か?」
復活してギャーギャー喚く男は五月蝿い。
ベッドの上で窓枠に置いていた煙草を手にとる。
が、ライターがねえ。煙草をくわえて、男に手を伸ばした。
「おい。ライター」
「ったく……何様だてめーは」
ぼやきながらも投げ渡されたライターで、火をつける。
朝から野郎の顔拝みながら煙草を吸う趣味はねえから、俺は窓の外に目を移し、煙を吐いた。
美味くも不味くもねえ。これを吸うのは、ただの習慣みてえなもんだ。
「つかお前、体くらい隠せよ」
「今更だろ」
呆れたように言うヤツは上半身裸。俺は全裸。
ベッド脇には脱ぎ散らかした服と、ゴミ箱にはティッシュ。
昨夜行われた行為の跡が、生々しく残る。
「少しは恥じらえって……」
それに何の反応もしねえまま、もう一度煙を吸い込んで、口の中で転がし、ゆっくり吐き出した。ギシ、と軋む音に視線を移せば、男が俺に背を向けベッドに座っている。
そのまま差し出された、昨日飲んだビールの空き缶を受け取り、灰皿にした。
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