05 「き、……きもちよかった」 「……っそりゃ良かったな……」 「ちょ、何でそっち向くのっこっち向いてくださいよ、」 「〜〜っ見んな……!」 終わって間もない行為は、今までにないくらいに気持ちがよかった。 今俺に背を向けて(きっと)顔を赤らめてる先輩も同じだったのか、最中は見たことがないくらいに乱れて、壮絶にエロかった。 「……先輩、嫌じゃなかったですか?」 こっち向いて、嫌だ、の押し問答を何度か繰り返した後、大丈夫だろうと思いながらもやっぱり不安で、俺は行為中も何度かした問いかけを繰り返した。 先輩は少し黙ってから、俺の方にごそりと寝返りを打って、俺を睨んだ。 その眼の強さに、引き込まれる。 「……そんなに俺の言葉は信用ならねえか」 「そ、んなんじゃ、なくて……」 「なら、もう聞くな。さっきも言っただろ、お互い言いたいこと言えねえんじゃ変らねえって」 「はい」 「……俺だって、本気で嫌なら許してねえよ」 そうぶっきらぼうに言って、俺の肩口に額を押し付ける先輩。 行為中と同じように、おっかなびっくり、その後頭部に手を伸ばして、なるべく優しく抱きこむ。 「ふ。お前、触るのにビビりすぎ」 「、からかわないで下さいよー……」 「だけど、俺お前の触り方好きだぜ。優しくて」 そのぎこちなさに、先輩がクスクスと笑う。 幸せそうに、甘い笑顔で。 優しい触り方だって、そう俺に笑う。 前は、こんな風にこの人に触ることが出来なかった。 だけど、今は違う。 俺はそれが嬉しくて、嬉しくて。 そして、幸せでたまらなかった。 「そういや、お前に言いてえことあったんだった」 情事後の気だるさと幸福感を感じながら、先輩を抱きしめて先輩のベッドで横になっていると、先輩が、顔をあげる。 至近距離でかち合う視線に一瞬動揺して、すぐにそれどころじゃないだろ、はっとする。 ドキリ、と心臓が嫌な脈を刻んだ。 「え…? なに、悪いこと…?」 「ちげーよ、どんだけマイナス思考なんだお前」 クスクス笑う先輩の表情からして、本当に悪いことではないみたいで、安心する。 じゃあ何ですか? と先輩の髪の匂いを嗅ぎながら、尋ねた。 「んー…お前さあ?」 「はい」 先輩からは、いつも陽だまりの匂いがする。 すごく、落ち着くにおい。 気のせいだって、きっと先輩は笑うだろうな。 「あれからずっとヤらなかったのって、俺に大事にされてるって思われたいからか?」 「、……え」 なんでわかったんだろう? 俺は目を見開いて、先輩を見る。 先輩はそんな俺に、少し呆れたような表情で「わかりやすすぎなんだよ、不器用」って笑う。 「……あのな、俺が大事にされてるって感じるかどうかなんて、いちいち気にしなくていい」 先輩の言葉に、俺は動揺した。 がばっと体を起して、先輩を見下ろす。 「、な、なんでっ」 「なんでって……お前が自分なりに俺を大事にしてくれるなら、それがどんなに下手くそでも、俺にとっては幸せだからだよ」 「、え?」 俺にとって、大事に出来てるかどうかの判断は、先輩が満足してくれるかどうかで。 なのに何でだろう、そう思ってたら、先輩からはそんな答えが返ってきて、俺は思わず間抜けな声を上げた。 先輩は見下ろす俺に手をのばして、俺の頬に触れる。 優しく、やわらかな手つきで。 「……俺は別に、大事にされてないとか、そんなアホらしいこと言うつもりはねえんだよ」 「、はい……」 「大事にするって人それぞれ形はちげーだろ。それなのに、自分の価値観を押し付けてどうする?」 「……じゃあ、俺はどうすれば……」 「だからな、」 どうしたら大事にできてるってことになるのか。 そう縋るように先輩を見ると、先輩はにっと、男前に笑って。 「お前が俺を大事だと思ってくれるんなら、…俺はもう、それだけでいいんだよ」 だから、お前のやりてえことをやればいい。 言いてえことを言えばいい。 そう言って、呆ける俺の首に、両手をのばして、胸元に頭を抱き寄せられた。 「わっ、」 「それくらい俺は、――お前が、好きなんだからよ」 「だから、怖がるな」って、先輩それ男前すぎるよ。 ずるいよそんなの。 ……また、息が出来なくなる。 (想いの許容量なんてとっくに超えてるのに、先輩の一言で、また想いが募ってく) 「ほら、もう寝るぞ。俺は眠い」 布団をばさっと被せてくる先輩。 ぎゅっと抱きしめられて抱きしめて、俺は涙が出そうになるのを感じた。 だって、どうして本当にこの人は、俺なんかにこんなこと、言ってくれるんだろう。 どうしてこんなに想ってくれるんだろう。 あんなに傷付けた。あんなにひどいことをした。 それなのに、こんなに優しく、俺を想ってくれる。 (ごめんなさい、) (好きだな、大好きだな、幸せだな) あふれる思いに、涙を堪えながら、ああ、と思う。 「……もー、窒息、しそう」 「、そんな強く抱いてねえぞ?」 先輩が俺を抱きながら、俺に抱かれながら、不思議そうに首を傾げる。 そんな先輩に、またキスをして。 「違うよ。……先輩が好きで幸せで、上手く言い表せないけど、とにかく胸がいっぱいで、俺、息が出来なくなるんだ」 「………なんだそりゃ…」 先輩は、俺を少し見つめた後、気恥ずかしそうに、目を反らす。 そんな反応まで愛しくて、俺は強く先輩を抱きしめて、笑った。 「だから俺、窒息しそうだなって……」 「あっそ、」 俺に顔が見えないように、俺の腕に顔を隠す先輩。 そんな先輩を抱きしめて笑う俺。 ずっと夢見てきた、やさしい幸せの形。 好き。好きです、大好きです。 あなたを好きになれてよかった。 あなたが俺を想ってくれてよかった。 いっぱい傷付けたけど。 嘘もついたし、本当にひどいことをしたけど。 もう傷付けない。 言いたいことは全部言うし、代わりにあなたの言葉も全部聞かせてほしい。 俺のわがままもあなたのわがままも、全部全部ひっくるめて、二人で大事にしていきたい。 ずっとずっと、いつか俺がこの想いで窒息する、その日が来ても。 「……森下」 「、はい?」 「俺も、……窒息しそう」 「……うん」 ハロー、ハロー。愛しい人へ。 あなたへの想いで、窒息したい。 ハロー、ハロー。 (どんなに凍えるほど寒い夜だって、) (あなたと抱き合って眠れる夜なら、寒さなんて感じない) 旧拍手でした。 森下と松本は、こんな感じでゆっくりゆっくり幸せになっていけばいいと思います。 森下は不器用ながら松本にベタ惚れで大切で、松本は森下を愛しちゃってます。 ずっと幸せなシーンも書きたかったので、満足です! ←短編小説へ [戻る] |