01 先輩にあの日誓ったこと。 もう先輩に嘘つかない。 もう先輩の嫌がることしない。 もう先輩を泣かせない。 もう先輩に「好きになりたくなかった」なんて言わせない。 ヘタクソでも、ちゃんと先輩のこと、大事にする。 あの日俺が先輩に約束したこと。 それをちゃんと守れてるかは、俺にはよくわからない。 ハロー、ハロー。 視界の真ん中で、一人がけのソファークッションに座った松本先輩が、雑誌を読んでる。 普段はかけない眼鏡をして、真剣な表情。 寒がりの先輩に、2月も末のこの季節はキツいらしい。 暖房の効いた室内だっていうのにずいぶん厚着だ。 俺はそんな先輩をじぃっと見つめたまま、先輩がいれてくれたコーヒーを啜った。 他のコーヒーとは違う、苦さの中にもどこか甘さのある独特のこの味が、俺はずっと前から好きだった。 「……今夜は、この冬一番の冷え込みとなるでしょう」 付けっぱなしになってたテレビから、女の人のそんな声がしたから、俺は思わず自分の後ろにあるテレビを振り返った。 その中ではちょうど、お天気お姉さんが「暖かくしてお休み下さい」と笑ってるところだった。 (暖かくして…ね) 俺はその言葉を反芻しながら、テレビのすぐ後ろの大きめの窓の外を見た。 まだ時間は17時を回るところなのに、外はもう真っ暗だ。 見るからに寒そうな外と中を区切る透明の窓は曇っている。 ああやっぱ寒いんだ、外の空気を想像して、俺は体を小さく震わせた。 「寒ィか?」 不意に先輩からかけられた声に、弾かれたようにそっちを向く体。 先輩は眼鏡越しに俺を見つめていた。 思わず、顔がにやける。 「全っ然」 「あ、そ」 目を少し細めた(優しく)先輩が、また雑誌に目を落とすから、俺は何か考えるより早く、「でも」、声をあげていた。 「でも、今夜はこの冬一番の冷え込みなんだって」 「マジかよ……」 「こないだもそれ言ってたぞ」とかぶつぶつ言いながら、結局雑誌に戻ってしまう松本先輩。 途端、俺の胸が駄々をこねはじめた。 こっち向いて、先輩、かまって。 そう言いたくて言えなくて、俺はもどかしさに小さく唇を噛んだ。 そんな我が儘は言えない。 こうやって先輩の家に上がらせてもらえるだけで、先輩が俺のそばにいてくれるだけで奇跡なんだから。 それだけのことを、俺はしてしまった。 わかってる。 ……わかってるんだ、けど。 (……困ったなァ、) 気持ちが全然、言うことを聞いてくれない。 ← → [戻る] |