03 俺自身、本当はずっと、考えていた。 このままこいつと、こんな非生産的な関係でいていいのかと。 本当は、その手を離さなきゃならねえんじゃねえかと。 だから俺にはあいつを引き止めることなんか、出来なかった。 迷いがあんのにあいつの決意を、笑って蹴り飛ばせるがはずねえから。 『……うん』 裕一は、笑った。これでいいのだと言うように、笑った。 引き止めることどころか、笑うことも泣くことも出来ねえ俺に、笑って。 『さようなら、來』 副声音で聞こえた、(だいすきだよ)。 そっと手渡されたその言葉が、今も俺は、忘れられずにいる。 (……なんて、きっとテメェは、信じやしねえんだろうな) 「そんなに、好きだったのか?」 男の声が、俺を朝に引き戻す。 俺は大分長くなってた煙草の灰を落として、返した。 「別に。……ってかテメェには関係ねえ」 そう冷たく言ってから、思わず自嘲がこぼれた。 あいつはもういねえのに、今でも素直に気持ちの一つも言えねえ俺だから。 だからあの馬鹿を、不安にさせたんだろうな。 (一度も好きだと、言ってやれなかった) 「そうか? ……すっげーイイ顔してんぜ、今」 「……」 「めちゃくちゃにしたくなる」 好き勝手ほざく男がうぜえ。 ヤツを黙らせたくて、俺は煙草を唇にくわえ、ゆっくりヤツを見る。 かちあう視線をそのままに、ゆっくり煙を吸い込み煙草を離して、男に向かって細く吐き出した。 その喉が動くのが、はっきり見えて、それを鼻で笑う。 (ああ……下らねえ) 「……誘ってんのか」 「さあな」 ち、と小さな舌打ち、男は乱暴に煙草を消した。 そして俺の腕をとって、煙草を奪う。 そして口に入り込んできた、俺のとは違う煙草の味。 瞬間、あいつの言葉がまた、よみがえった。 『さようなら』 息が、苦しい。 躊躇いがちに俺に触れた、この男と少し似たあつい手も、 好きだと囁く不器用な声も、 犬みてえな笑顔も。 何もかも忘れちゃいねえのに、今ここにいるのはあいつじゃねえ。 もうあいつは戻らねえ。 わかってる。 もう二度と、逢えやしねえんだ。わかってる。 だから、………だから、もう。 『だいすきだよ』 頭ん中カラにして、テメェのことなんか、忘れてえ。 (でもカラんなっても、テメェのことだけは消えねえのも、わかってる) 終わった恋の忘れ方 (誰よりもふかくいとしいと思えた君の、忘れ方を) (、どうか誰か、教えてください) ← → [戻る] |