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ep01-06.変装中なんです





晋吾さんには、10歳下の小百合さんという妹さんがいる。僕らも面識があって、晋吾さん同様可愛がってもらっている。
その小百合さんと爽平は恋仲で、一般家庭の爽平が少しでも釣り合うようにとこの学園に入ることを久守下家本家に約束させられた。
僕はただの一般庶民で、爽平に頼まれ一緒に転入してきた。
これが僕と晋吾さんが考えた、ありえそうで上手く誤魔化せる最良の嘘だった。

もちろん、小百合さんも了承済みだ。
あの人楽しそうなこと大好きだし、爽平のことかなり気に入ってるからなぁ。


「晋吾さん、俺小百合さんにお礼の電話したいから、後で番号教えて。前の携帯壊して、データ飛んでんだ」
「おう、したってや。ちゅーか、俺のも番号登録しとき」
「ありがとう」


"嘘"の内容を爽平に教えたのは、実は昨日だ。絶対反対すると思ったから。
案の定爽平は申し訳ないからと撤回するよう言ってきたけど、なんとか説き伏せた。
だからまだ小百合さんにお礼を言えていないのだ。


「なるほどな。……おい、晋吾」


事のあらましを話すと、柏木先生が困惑した様子で晋吾さんを呼ぶ。


「なんや?」
「……たしかに風紀の目から見ても、その設定でいけばそこまで目立たねえし、安全だと思う。似たような事情でここに通う生徒は、そんなに珍しくねえし」
「せやろ、俺らが学生やった頃もおったしな」
「篠ノ井のことも、仲良すぎだろって感じだが、まあごまかせるだろ。恭山にラブラブの彼女がいるなら、変に嫉妬もされねえだろうしな」
「せやろ」
「……けど、そこまでして目立たねえようにする理由はなんだ? 理由がわかんなきゃ、サポートも十分には出来ねえよ」


柏木先生が、真剣な面持ちで尋ねる。
その内容に、爽平がまた体を強張らせる。
でもたしかに、サポートしてもらうならきちんと説明しなきゃいけない。
大丈夫?という気持ちをこめて爽平を見ると、笑い返された。大丈夫そう。


「理由は、長うなるから後で話す。……とにかく、二人は目立ったらあかんのや。それはまずわかったって。絶対に生徒たちの中に、埋もれなあかん。そのために、」


晋吾さんが、僕らを見る。
何をしろと言われているのか察して、僕らは顔を見合わせた。
そして二人同時に、度の入っていないメガネを外す。
そして、見えないようにとめていたピンや特殊な道具を外し、髪に手を伸ばした。
僕は茶色、爽平は黒色の、それら。
そして一思いに、それを外した。


「――変装まで、しとんねんから」


どこか楽しそうな晋吾さんの声。
通気性がいい、今僕らの手の中にある毛玉(かつら、とも言う)をとって、まず僕が思ったこと。
それは、


「やっぱり、つけてないほうが涼しい」


ってことだった。
それから横を見て、爽平と目が合った。
そこにある、見慣れた姿。
思わず、笑ってしまう。


「ふはっ。なんか、久々な感じする」
「あはは。お久しぶり」


やっぱり変装してるとしてないじゃ、全然違うなあ。


「久しぶりやな二人ともぉおおぉおおお」
「晋吾様、今は抱きついてる場合ではないでしょう」
「…………まじかよ……」


僕らに抱きつこうとする晋吾さんを、珈琲を持ってきた芝浦さんが掴んで止めている。
その横で、柏木先生が僕らを見て呆気にとられているけど、それも仕方がないと思う。
自分で言うのもなんだけど、変装してる時としてない時、そうそう同一人物だとは思えないくらい違うし。カツラと眼鏡とカラコンと表情でこんなに変わるとは思わなかった。


「玲はカラコンしてんねん」


芝浦さんの「珈琲かけますよ」の一言に冷静さを取り戻した晋吾さんが、呆然と僕らを見る柏木先生にそう告げる。


「元の目が、青と緑とグレーの混ざったような不思議な色やから、目立ってまうやろ?」
「そうなのか。……金髪だし、ハーフなのか?」
「いえ、クオーターなんです。隔世遺伝で」
「……童話の王子みたいな見た目だな」
「ありがとうございます」


亡くなった祖母は、ドイツ人だった。その容姿が、隔世遺伝でほぼ僕にそのまま出た。
成長した今となっては王子だ綺麗だと言ってもらえるけど、小さい頃は、よくいじめられたものだ。
この金髪も目立つことはわかっていたから、転入が決まった時、髪は茶色く染めようと思ったのだけど、爽平が許してくれなかった。


「ん、玲はやっぱ金髪だな」
「そお?」
「そお」


「サラサラー」と言いながら、上機嫌で爽平が髪を撫でてくる。
リラックスしてるようだから水を差すのも気が引けて、好きにさせておく。
でもちょっと、不器用なくせに三つ編み作ろうとしないでー。


「爽平、絡まるからやめて下さい」
「絡まらねえよ、三つ編みなんだから」
「いつぞや爽平に髪いじられて大変なことになった覚えがあるんだけど?」
「……やめとくわ」
「うん、そうして」


それでも指先でくるくると髪をいじってくる爽平。楽しいのか、目元が緩んでる。
小さい頃から、なぜか僕の髪が好きらしく、よくこうやって触ってくる。
僕ももう慣れてしまって何とも思わない。慣れって怖いね。


「爽平も、その色の方がいいね」


ベリーショートの髪をくしゃりと触る。
爽平はなんでだか元々髪の色が少し薄くて、暗い灰色だ。少し猫っ毛で、触り心地がいい。
爽平は黒髪への憧れがあって、何度も髪を染めたのだけど、なぜか染まらずに毎度色がぬけてしまう。黒以外でもそうだった。
……金に染めた時は三日間くらいもったっけ。


「? そんなに違わねえだろ?」
「違うよ、やっぱり」


爽平はこんなことを言っているけど、やっぱり雰囲気が全然違う。
黒子隠してるから余計かもね。


「……恭山、お前」
「? なんすか?」


柏木先生に呼ばれ、先生の方を見る爽平。
その爽平を、じっと見つめて、先生はゆっくり口を開いた。


「…………変わりすぎじゃね?」
「そっすか?」


コテン、と首を傾げる爽平。途端、「うっ!」とスーツの胸部を掴んでソファに沈む柏木先生。……え、なに、持病?


「くっ……殺傷能力、高ぇ……!」
「は??」
「おいこらウサギてめえ爽平に手ェ出したらぶっ殺すぞ!!」
「口汚いですよ、晋吾様」


あ、晋吾さんが本気でキレた。










































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