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ep01−02.ホストじゃないそうです




明るい短めの茶髪、垂れ気味の黒い目、薄い唇。
垂れ目なのにも関わらず、顔は糖分控えめの端正な顔で、少し開いたYシャツの襟元から、どぎつい大人の色気が放出されてる。
センス良く複数のアクセサリーつけてるし、本人は否定してるけど、どう見たってホストにしか見えない。

その人が、僕らを上から下まで見てくる。
僕は爽平より心なし一歩前に出て、その人と対峙した。
爽平は初対面の人と話すの、実は苦手だから。
少しすると、その人は眉を寄せながら口を開いた。


「……お前ら、許可証見せてみろ」
「許可証?」
「そ。そのネクタイの色、赤と黒ってことは二年だろ? 特別棟が理事会、生徒会、風紀委員会の関係者、もしくは入門許可証をもらった生徒以外入れないのは知ってるはずだな?」


思わず、僕と爽平は顔を見合わせた。
「思いっきり初耳だよな?」って顔で僕を見て、それから彼を見る爽平。
それと同じ動きをする僕。
それをその人はなにか勘違いしたらしく、はーっ、と重い溜め息を吐いて「ったく、」と漏らした。


「入り口の鍵は空いていたのか?」
「あ……いえ、このカードキーで」


ポケットを探り、真っ黒のカードキーを取り出す。この学園への転入が決まった時、制服や靴と一緒に送られてきたものだ。
転入初日は、学園へ着いたらこのカードキーで特別棟の理事長室へくるよう案内があったのだけど……何かまずかったのかな?
そう思いながらそれを差し出した瞬間、その人がぎょっとした様子でカードキーを受け取った。


「っちょ、おい、これどこで手に入れた!?」


……まずかったらしい。


「どこで、って……理事長から送って頂きました。転入初日は、これで理事長室へくるようにと」
「お前なぁ、そんなわけねえだろ。理事長がどうして、…………え、転入初日?」
「……はい」


ピシリ、と動きが固まるその人。どうやら僕らを立入禁止の特別棟に勝手に入った一般生徒だと誤解してたみたいだ。
……まあ、僕らも、一瞬本当にホストだと誤解してしまったけど。
おあいこだよなぁ、と思い僕は苦笑しながら、口を開いた。


「今日からお世話になります、先生。僕は篠ノ井です」
「恭山デス」


そう告げた時のホストさん――もとい、先生の顔は、美形だとは言え間抜けで、少し笑えた。


「……わ、悪かった! ごめんな、在校生だと勘違いした!」


僕と爽平を見て、少し沈黙してからそう言うセンセイ。
慌てたように謝る先生に、「大丈夫ですよ」と返しながら、見た目とずいぶんギャップがあるなぁと思った。
なんだか苦労性っぽい気がする。なんとなくだけど。


「本当に疑って悪かった。俺は、柏木だ。この学園で生物を教えてる。よろしくな」


めちゃくちゃ常識人。
やっぱ、人は見かけによらないね。
失礼だから言わないけど。


「よろしくお願いします」
「……よろしくお願いします」
「実は、ちょうどお前らを迎えにいくとこだったんだ。理事長からの指示でな」


「門にいるって聞いたんだが、こっちの手違いだったみたいだな」と苦笑する柏木先生。なんだかすごく申し訳ない。
曖昧に僕が笑っていると、それまで黙っていた爽平が、ぼそっと小さく呟く。


「……マジ、教師に見えねえ」
「おいそこ、聞こえてんぞ」


多分僕にしか聞こえないように言ったつもりだったんだろう爽平を、ビシ!と指差す先生は、見た目より話しやすいタイプみたいだ。
「……地獄耳?」と今度こそ先生には聞こえないように僕の耳元で呟く爽平に、思わずくすりと笑ってしまった。
そんな僕らの様子に、先生が「あー……」とどこか気まずそうに、口を開いた。


「……お前らなんか、転入生に見えねえな」


どういう意味だ。


「こう、違和感ねえっつーか? ……うん、お前らならすぐにある程度学園にも馴染めるんじゃねえか?」
「……」
「……」
「なんで黙る?」


先生が多分優しさから言ってくれたんだろう言葉は、僕と爽平にはあまり嬉しくないものだった。
思わず顔を見合わせてしまった僕らに、先生は少しおかしそうに笑う。


「ま、ここの連中の常識は外から来た奴らには少しおかしく見えるだろうからなぁ」
「……こんな豪華な生活送ったことないので、なんだか落ち着かないです」
「ここの金銭感覚に慣れたらうちが破産する気がする」
「そういう意味じゃねーけど。ていうか、言うね、お前」
「あざっす」
「褒めてねーよ」


爽平が、先生に少し慣れ始めたのを見計らい、僕は少し体をずらした。
横の爽平を見ると、爽平は小さく頷く。僕もそれに微笑み返した。
先生はそんな僕らの様子を少し不思議そうに見ていたけど、すぐに本来の目的を思い出したようで、口を開いた。


「とりあえず、理事長室へ案内しよう。理事長から学園生活の詳しい説明がある。着いてきてくれ」
「ありがとうございます」
「お願いしマス」


そのお言葉に甘え、爽平と並んで、「こっちだ」と先を歩いてくれる柏木先生の後を着いていく。
「なんでカードキー送ったんだ?」と先生が呟いていたけど、僕らには答えかねることだったから、苦笑しておいた。
前を歩くスラリとした背中を見ながら、それにしても、と僕は首を傾げた。



……教師ってこんなに緩くていいのか?




























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