00 雨上がりの澄みきった空の下。 みずたまりの中に座り込んで。 傷を負った細い腕で、弱々しく抱きしめて。 そうして何度も、その名を呼んだ。 『――』 それなのに、一度もこたえは返ってこない。 『――、』 その頬を震える指先でうすくなぞっても、なんの反応もない。 『……――?』 目を開けてくれ、と、願うのはただ、それだけなのに。 こんなにも震える声で、呼んでいるのに。 『……――ぃ…っ』 たまらずに、縋るようにその名を呼んでその体を抱きしめて、祈るように、空を見上げた。 雨上がりの空は、青かった。 いつだか並んで見た空に、よく、似ていた。 けれど。 腕の中のぬくもりは、目を開けて、同じように空を見上げてはくれなくて。 愛しいぬくもりは、あの日のように、曇りなく笑ってはくれなくて。 『……め、ん』 だから、目の前の青が黒にかき消されて。 赤すらも、黒の中に消えていく。 見えない傷が、痛みを増していく。 『ごめん、ごめん、……ごめん……っ』 2人分の謝罪は重なり、けれど、どこにも届かずに。 途方もないその黒の中で、溶け込むような色のない涙が、ただ、零れた。 こんな腕では、こんな自分では、抱きしめることは、出来なかった。 『―――、』 (僕らは、ソラになりたかった) 届かなかった言葉と、伝えられない想い。 あの日あげられなかった慟哭は、今もまだ、黒の記憶とともにある。 ← [戻る] |