部誌提出作 ある魔物達@ テーマは「幸福論」 魔物シリーズの始まり。よくある話だけど、悪役視点もいいじゃない。 ここは発達した文明も機械も無い、剣と魔法の世界。 人口の主は人間。そういう世界ではお決まりの魔物も居た。 魔物と人間は戦いを繰り返しながらも、世界のバランスとしてはそこそこ平和に平穏に暮らしていた。 そこには、当然の如く魔物達を束ねて世界征服を企む魔王も居た。 そして、その魔王を倒そうとする勇者も―― ・魔王 私は魔王だ。 夢は世界征服だ。 何を馬鹿な事を言っている、と思うかもしれないが事実だ。 本名は人型ドラゴン。 私の人生は生まれた時から戦いだった。卵から出てきた時に始めに見た光景が親と騎士団の人間が戦っている姿だったなんて滑稽にも程がある。家族は襲ってくる騎士団と戦っているうちに何処かへ行ってしまった。おそらく私以外の人型ドラゴンは皆狩られてしまったのだろう。 ……寂しくはない。 私は強かったから騎士団を壊滅させ生き延びる事が出来た。しかし、しばらくすると次から次へとやって来る騎士団に嫌気がさして、逃げるように山に籠もった。すると今度は勇者と名乗る人間が現れて襲ってきた。無論死にたくないので返り討ちにした。 格下の相手は殺さずつまみ出し、互角の相手にはそんな余裕は無いので殺す。そんな私を友人のウィッチは甘いなんて言うが、私は甘くて何が悪いと思っているので変えるつもりは無い。 ある日、私の住んでいる洞窟に訪問者が現れた。勇者かと思ったが訪問者は人間ではなく一匹のスライムだった。 「あの……人型ドラゴン様でしょうか?」 「そうだが、何か?」 「見ず知らずの僕がこのような事を頼むのはどうかと思うのですが……」 スライムは魔物を人間達から守って欲しいと言った。 「……僕の仲間は人間達に全て殺されてしまいました。僕は弱いから仲間が人間達に倒されるのを黙って見ているしか無かった……」 その姿が一人になった私の姿と重なったのは気のせいだろう。私とスライムは状況が全く違うからな。 「お願いします。僕を此処に住まわせて下さい」 断る理由は無かったので、私とスライムは一緒に暮らすようになった。 相変わらず勇者は来る。私は返り討ちにする。 勇者を殺さない私を見てもスライムは文句を言わなかった。 「だって人間は安全に暮らしたいから魔物を倒そうとしているんでしょう?」 だからしょうがないんです、とスライムは悲しげに言った。私には何がしょうがないのか全く分からなかった。 だが、決心したことはある。 最近は私がスライムを守っていると噂を聞きつけた弱い魔物が洞窟に集まるようになっていた。私は弱い魔物が助けを求める度に洞窟を掘り進め、住まいを作った。洞窟はどんどん深く複雑になっていく。そして、人間の村は襲っていないのに人間が襲ってくる回数が増えた。私は全員返り討ちにした。 これではキリが無い。今はいいが将来私一人で全ての魔物を守って行くのは不可能になる。……だから決めたのだ。世界征服をしようと。 世界征服をして、魔物が命の危険に晒されず、人間が魔物の事を危険視しない、平和な世界を作りたいと思ったのだ。その時はスライムが死なない世界と考えていただけだったが。 ある日、洞窟も狭くなってきたから、とドワーフ達が山を削って城を作ってくれた。その頃には私の夢を手伝ってくれるという強い魔物も現れて、勇者を追い払うのも随分楽になってきた。洞窟に住む友人のウィッチは側に居てくれはしたが、手伝ってはくれなかった。 城の外に居る魔物がだいぶ少なくなって、友好的な人間も少しは来るようになった頃、ウィッチは言った。 「アンタ、魔王って呼ばれてるよ」 ウィッチはクスクスとおかしそうに笑う。 「人間からも魔物からも」 「私は人型ドラゴンであって王なんかじゃない」 おこがましいにも程がある、と言うとウィッチは更におかしそうにクスクス笑った。 「いーじゃない。称号みたいなモンなんだから、ありがたく受け取っときなよ」 だが、と渋る私の言葉を遮るようにウィッチは言う。 「魔王イコール世界征服狙うって相場が決まってるさね」 「なら名乗ろう」 即答。今のウィッチの言葉は渋っていた私の心を一気に固めた。 「フフ、そんな魔王様にピッタリな物をあげるよ」 今度はニヤニヤしながらウィッチはくるりと指を回して何かを出した。 「……黒猫?」 「王様っていうのは何かペットを飼っているらしいねぇ」 その黒猫は魔物ではなく普通の猫だった。黒猫を傷つけないようにそっと撫でてみる。 「人型ドラゴンには似合わないけど、魔王として見るとなかなかどうして似合うじゃないか」 人間にとって不幸の象徴の黒猫。人間側から見ると不幸をもたらす私に似合うということだろうか。 にゃあ、と黒猫は気持ち良さそうに鳴いた。 「人型ドラゴン、仲間が増えて嬉しーい?」 ウィッチはにっこりと笑った。 「ああ。嬉しいぞ」 「アタシは悲しいね」 私が答えるとウィッチは表情を一変させ私を睨んだ。 「今ではかなりの数の魔物がここに住んでいる。つまり外では魔物の数が減っているってことだよ。人間の子供で魔物を見たことが無いというヤツもいるそうじゃないか」 「何が言いたい」 「人型ドラゴン、いや魔王がやっていることは魔物という存在を消す事じゃないのかい?」 「……違う」 「分かってるさ。王を倒して魔物を殺さないようにするかい?それとも地味に説得していく?それとも三百年位ここに籠もって、存在を忘れられた頃に出て仲良くしようとか?」 ウィッチは私から視線をそらす。 「アタシは今まで何にも言わなかったけど、この楽園は好きだよ。だからこそ、この先が不安なんだ」 「何を馬鹿な事を言っている」 私はいつも言っているように言った。 「この楽園を守るために世界征服をするんじゃないか」 ウィッチは一瞬変な顔をした後、苦笑いした。 「……そう、だねぇ」 「ああ、そうだ」 私は幸せだった。 一番の幸せでは無いけれど、魔物同士が助け合って、人間が理解し始め、ウィッチも気に入ってくれて。私は幸せだった。 この幸せを維持するためならば、甘いと言われても無理だと言われても考えを貫こう。 願うならば――全ての魔物が私と同じ幸せを味わって欲しい。 [*前へ][次へ#] |