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部誌提出作
知りたがりは宝物に鍵をかける
テーマは「鍵」
主人公の名前が「カオル」縛り。
医学的なことは何も知らん。

小さな頃から僕は知りたがりだった。
本があったら読んで内容を確かめ、箪笥があったら開けて中身を見て、箱があったら鍵を壊して中を見た。
ある日の学校で、クラスの女の子が何かを隠すようにこそこそ鞄を開いていた。
知りたがりの僕はその女の子の鞄を奪って中を見た。中にあったのは綺麗にラッピングされた包みであった。宛名もあり、「カオル君へ」と僕の名前が書いてあった。
周りの男子に色々言われたのに加え、僕自身も中身が知りたくなったので包みを開けた。
入っていたのはなんて事はない、ただのチョコだ。
そうだ、今日はバレンタインだ。バレンタインなんだからチョコが入っているのは当然じゃないか。そう考えたら宝物の様に見えた包みが途端につまらなくなってしまった。
男子が何か言っていたが、包みに興味の無くなった僕は「ありがとう」と言って包みを返した。
すると突然女の子は泣き出した。
先生が教室に来た事で事態は収まったが、後で僕は「人の気持ちを踏みにじるな」と怒られた。どうやら、その女の子は僕にチョコを渡すつもりだったらしいが、突き返されたのをいらないという意味で受け取ったらしい。

「で、カオルはそのチョコ結局受け取ったの?」
「もちろん。いくら知りたがりの僕とはいえ、お菓子は大好きだったからね」
「じゃあ何で返したのよ…」
「他人が彼女の物を奪うのはよくない事だよ。僕に渡したかったなら、もう一回渡してくれればいいんだ」
「『これ、僕に?』位言ってあげれば良かったのよ、この甲斐性無し!」
「えー…?」

僕の知りたがりがまた事件として表に出たのは、小学校三年生位の時だろうか。
何かのイベントでプレゼント交換があった際、僕はそのプレゼントを全部開けてしまったのだ。
もちろん先生は怒り、女の子達は泣いて、男の子達は呆然としていた。
僕は先生の言葉を無視して中身の見えたプレゼントを眺めた。ぬいぐるみ、人気アニメのロボット、クレヨンにスケッチブック。子供の部分の僕は喜んでいたが、表面上僕は大人びた子供だったのでそれを冷めた目で見つめていた。おそらく大人びた僕は中身を見てがっかりしたのだろう。僕が話を聞いて居ない事に気がついた先生はさらに起こり始めた。
迎えに来た両親はひたすら頭を下げていた。家でまた怒られたが僕は気にしなかった。
この世界には見えない物が多すぎなんだよ。そう言って両親は納得する訳もない。それに続けようとした言葉は聞いてくれる素振りさえ見せなかった。
そんな両親の言葉を聞きたい訳が無い。中身を見たいとさえ思わなかった。

「………」
「…何」
「カオル…大人気ない」
「えぇ?」
「先生もカオルが喜ぶ素振りをしてればそれ程怒らなかったと思うよ?」
「どういう事?」
「喜んでくれれば、中身の見せがいもあるじゃない」
「喜べば良かったって事?」
「そうよ。つまんなそーな顔してたら、せっかく用意したのにってなるじゃない」
「君からプレゼントなら喜ぶよ」
「…っ、何言ってんのよっ!」

犯罪まがい、から決定的に犯罪者に変わったのはいつだっただろうか。
知りたがりの僕は気になってはいけない物の中身が知りたくなってしまったのだ。
それは、人間の中身。
百聞は一見に如かず。資料では本当に人間の中に資料通りの物が入っているのか分からない。しかし、合法的に中身を見たくても運の悪い事に僕は文系だった。
そして僕は人の中身を見た。
知らない人を人通りの少ない所に誘い込み、横隔膜のちょうど下に包丁を刺す。そのまま包丁を下に下ろせば、腹がぱっくり割れて中がよく見えた。
しかし人間の中に入っていたのは何てことはない、ただの臓器だけだった。
中身は資料で見た通り、胃があり腸があり肝臓があった。
……正直がっかりした。
僕は人間は資料とは違う、別の何かがあるような気がしたのだ。人間の中身は肉屋なら喜ぶであろう物だったが、僕にとってはただの生ゴミだった。
興味の失せたそれをそのまま放置して僕は家に帰った。
…………しかし。
どうしてだか僕は人間の中身を開けるのを止められなかった。毎日キラリと銀色に光る鍵を持って、『アタリ』の入っている宝箱を探した。『アタリ』がある人間なんて居るのかどうかも分からなかったけど。

「それで『アタリ』の入った人間は見つかった?」
「残念ながら見つかっていない」
「そっかー……あ、カオル!誕生日おめでとう!」
「ん?…本当だ、十二時過ぎてる。でも突然どうしたの?」
「知りたがりのカオルにがっかりしないプレゼントをあげようと思って」
「君からのプレゼントって時点でがっかりする訳ないよ」
「ふふふ、そう言わずに。まあ、プレゼントを見なよ!」
「何処にあるの?」
「それは………」

「私よっ!」

意味が分からなかった。
「君が僕の彼女な時点でプレゼントする意味が無いような…」
がっかり、というよりも拍子抜けした。彼女のプレゼントなら何でも喜べるが、彼女自身をプレゼントされても実感が湧かない。
「ほら、私の体好きにして良いよ」
「……いつもと変わらなくない?」
僕達はとっくに成人しているので、もちろんそういう事はしている。そう言う意味なのだろうか。
僕の言いたい事が分かったのか、彼女はじれったそうな顔になった。
「違うって。私の中身見て良いよ、って事!」
「…え?」
「ほら、銀色の鍵持って!」
僕が呆然としているうちに彼女は僕の右手に包丁を握らせる。僕はとっさに彼女の手を振り払った。
「ちょっ…待ってよ!何でいきなり!」
「カオルは私の中身を見たいと思ったことは無いの?」
彼女の顔は真剣で、僕は言葉に詰まった。
彼女の中身が見たいと思ったことは何度もある。毎日毎日毎日何度も何度も何度も、彼女の事を考えた。その中で彼女の中身の事を考えた回数は決して少なくない。
「それで何も無かったらどうするんだよ!」
だが、僕は彼女が居なくなるのを恐れていた。知りたがりの好奇心以上に。もし、彼女の中身を見て何もなかったらどうする?僕はがっかりした上、彼女という存在も失うのだ。
「私はカオルの彼女なんだから、他の人と違うと思えばいいでしょ」
彼女は何てことの無い風に笑った。
「信じてよ、私を」
それが僕の揺れていた天秤を傾けた。
「……拷問並みに痛いけど、我慢出来る?」
「麻酔打つから平気」
彼女は僕に嬉しそうに微笑んだ。

「おやすみー」
おそらくそれが彼女の最後の言葉になるのだろう。中身を見た後、それに蓋をする技術が僕にあれば。少しだけ後悔した。
数十分後、僕は眠っている彼女に馬乗りになり、包丁を構えた。初めて人間の中身を見たときみたいに横隔膜下に包丁をゆっくりと入れる。ぷっつりと、そしてじわじわと、血が広がっていった。
それを引き抜くと僕は肉切り鋏を使って丁寧に解体し始めた。そうして、彼女の皮と骨を切って、鎖骨下からへそのすぐ下まで彼女の中身が露わになった。
まず僕は腹部を見た。胃、腸、肝臓。今まで見てきた人間と同じ、至って普通のものばかり。僕はがっかりしながら心臓へと視線を移した。
心臓には、資料とも他の人間とも違う、見たことの無いものがあった。五センチ程の金属の塊だ。
心臓ペースメーカー。一般的にはそう呼ばれるであろう物、それが彼女の心臓には付いていた。
僕は情けなくも涙を流してしまった。
ああ、彼女は本当に他の人間とは違ったのだ。彼女の中身は知りたがりの僕が求めた未知の中身だった。
どくん、どくん。彼女の心臓が震えている。一定のリズムを刻む彼女の心臓を見て、僕は気がついた。
僕は今、彼女の命は僕が握っていると思っていたのだが違ったようだ。この金属の塊が彼女の命を支えていたのだ。これが動かなくなれば彼女も死ぬ、動けば彼女は生きる。このペースメーカーが彼女の命を握っている。これは最早彼女の命であると言えるだろう。
僕は彼女の心臓からペースメーカーを取り出した。
「……これ、僕に?」
彼女の答えは無い。そういえば、彼女は自身をプレゼントすると言っていた。既に僕の物だった。
さて、問題はしまう場所だ。
しばらく考えて僕は自分の腹に包丁を突き刺した。そしていつもやっていたように腹を開く。
激痛。尋常で無い痛み。泣き叫びたい気分だったが、僕は無視して彼女の命を僕の腹の中へ押し込む。ずちゅ、と聞き慣れた音がする。
頭の悪い僕には絶対に盗まれない箱なんて僕の中しか思いつかなかったのだ。
だが、どうやっても僕の腹は閉まらない。そうだ、開けた事はあったが、閉めた事なんて一度も無いんだった。
どうしよう、蓋をしないと、鍵をかけないと、彼女の命が盗まれる。
………鍵?
…そういえば、彼女は包丁の事を『銀色の鍵』と言っていた。
…………………………そっか。
ずしゅっ、という音と共に心臓が悲鳴をあげた。
僕はきちんと僕に鍵をした。これで安心だ。
心臓が止まる事は怖く無い。
知りたい事は全て見て満足したし、未知の中身も見れた。そして、彼女の命は鍵のかけられた僕の中で守られる。
心残りなんて……………。
僕の中身が、知りたくなった。

2009年作成

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