部誌提出作
ある魔物達E
・勇者と呼ばれる生き物
ウィッチの言葉で俺の心は決まった。しかし勢いのついた剣は止まる訳が無く、ウィッチに刺さるかと思われた。
「な、んで……」
ウィッチの呟きが聞こえた。
「私も驚いた」
魔王もウィッチにそう言う。
「違うよ!何で……何でアンタが盾になってんのさ!」
俺の剣は魔王の背中に深々と刺さっていた。
「盾じゃない……ウィッチ、守れなくてすまない」
そして、俺の剣は魔王を貫き魔王が守ったはずのウィッチにも突き刺さっていた。
「いいんだよ、私はバグだから死なな……」
ウィッチの言葉が途中で止まる。俺も魔王も何も言えなかった。
ウィッチの記憶が、バグが、俺の剣を通して入ってきたのだ。
「これ、は……」
二人に申し訳ないと思ったが、俺は怖くなって剣を抜いた。ふらりと二人の体が傾く。
「そうか……混ざり物は、例外だったんだね……」
床に仰向けに倒れたウィッチはそう呟いた。
そう、人間と魔物との混血の俺は人間でも魔物でも無い。世界の理から外れた生き物だったのだ。だからバグのウィッチを倒すことが出来るのだ。
「ウィッチ、何故今まで黙っていた」
喋るのも辛いだろう魔王が言う。
「……だって、アタシはバグだから」
ウィッチが自嘲気味に笑う。俺も魔王も言いたい事は分かったので黙っていた。
バグは俺の一撃で拡散してしまったから、ウィッチはもう無敵ではない。死んでしまう。魔王も死んでしまうのだろう。
「何悲しげな顔してんのさ」
ウィッチは俺を見ていた。
「アンタは魔王を倒したんだ、英雄になれるんだよ……」
「英雄になったって……、嬉しくない。魔王が守ってきた魔物は?人間に倒されるじゃないか」
「そんなの、知ったこっちゃないだろ?アンタは人間の味方、なんだから」
「そうだ、俺は人間の味方だ」
俺は自分に言い聞かせるように言った。
「人間みたいに笑って泣いて考えて友達を庇う奴はもう立派な人間じゃないか」
「…………」
「俺は魔物も人間も守ってみせる」
俺は魔王を見た。
「俺の夢は世界征服じゃなくて、世界平和。俺は俺のやり方でお前と同じ願いを叶えるよ」
「お前は……」
「俺のせいでこんな事になって、申し訳ないと思う。でも、安心してくれ」
俺は魔王の横へとしゃがむ。魔王は俺の目を暫く見てから呟くように言った。
「……お前のそれが罪の意識で無いというのなら、喜んでお前に託そう」
それから魔王はふっと笑った。
「私はウィッチの幸せについていくとしよう……」
「ひ、とがた…ドラゴン…」
ウィッチがもはや叫ぶ力も無いのか、かすれ声で言う。
「ウィッチの幸せは…私の幸せなん、だ…から…」
それきり、魔王は動かなくなった。
ウィッチも動かなかった。
それから何日か経った日。
俺は魔物も人間も平和に暮らせる世界を目指して頑張ることにした。まだ人間は魔物の事を嫌っているし、魔物も人間の事を襲ったりするけれど、俺に賛同する人間や魔物も何人か手伝ってくれるらしい。
平和な世界になるまで何年かかるか分からない。
でも、いつかは魔王の夢、ウィッチの思い、スライムの願いを叶えると信じている。
夢が叶い、俺の人間と魔物の部分、それが両方満たされた時が俺の幸せだ。
2009年作成
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