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悪戯書き集
平然の態度
「多々角」
次の日の放課後、サネは思わせ振りに僕に話し掛けて来た。
「何だい、改まって」
「俺の相棒は多々角しか居ないと思っている。相棒になってくれよ」
僕は答えにちょっと詰まった。「なるだろ?」ならともかく「なってくれよ」なんて下手に出た言い方、転校してきてから僕に対しては初めて聞いたので驚いた、というのもある。それより困ったのは……実は、僕はサネが僕のことを相棒と決めて呼んだ時点で、強制的に相棒にされたと思って嫌々ながらも認めていたのだ。と僕が無意識に考えていた事に気が付いてしまったのだ。
「あー、えェと……」
「何だ?珍しく歯切れの悪い答えじゃあないか。多々角ならすっぱり断るか、あっさり認めてくれるかのどっちかだと思っていたのに」
サネはわざとらしく片眉を上げた。まるで僕の事を知り尽くしているような発言であり、挑発である。先程から気持ちを整理出来ていないのだが、僕はその気持ちを誤魔化すように口を開いた。
「……納得行かないけど、相棒ってことで良いんじゃあないか」
「嬉しいな、まるで俺が言う前から相棒だと認めていたって言う口振りだ」
サネはニコニコした。似合わない。
「ま、多々角ならそういう『常識はずれ』なことを思ってると俺は『知っていた』けどな」
僕はその言葉に何か……違和感を覚えた。まるで僕がサネを相棒だと認めている事が、いつもとは違う、普通がひっくり返ったような。僕にとって常識はずれであることが当然であるような。
「まさか……お前、能力を使ったのか?」
「おいおい、お前なんて呼ぶなよ。相棒なんだから下の名前で呼んでくれても構わないんだぜ」
「答えろよ。使ったのか?使っていないのか?」
僕が睨むとサネは平然とした態度で、黙ってニヤッと笑ってみせた。僕は教室の窓が開いていることを確認する。大丈夫、換気のために全開だ。
「その沈黙、肯定と受け取る」
思いの外、怖い声が出た。どうせサネは気にしないだろうが。僕はその場で軽くジャンプして、能力を発動させる。
「お、ッと……!?」
サネの体が窓の方へと傾く。同時に僕の体も傾いた。そのまま重力を無視して窓の方へと二人とも引き付けられる。僕の向かう先は先程確認した開いた窓。だが、サネが向かうのは――閉じた硝子窓だ。
「多々角……ッ!」
サネの体が窓へとぶつかり、そしてすり抜けた。此方を見て僕の名前を呼んだサネの声に余裕は感じられなかった。僕は落ち着いて手すりに触れ、校舎から飛び出そうとする体を止める。僕の体は重力に縛られず、触れたままの体勢で止まっていた。
「あァ……まだ僕の能力名を言ってなかったね」
見るとサネも手すりに捕まって『真横にぶら下がっていた』。僕も手すりを地面にして立つ。
「僕の能力は『上下左右を決める』。サネには勝てないけど、中々強い能力なんだよ?」
「俺の相棒の癖に俺を殺そうとするなんて、流石俺の見込んだ相棒だな……」
僕の能力は重力を無視して、上下左右を好きに決めることが出来る。地面だとか、建物だとか、固定されている物に触れて居なければ発動出来ないという条件付きではあるが。ハンデはあるが、狭い屋内ではかなり有利な能力である。
「殺そうなんて思っちゃいないよ。能力が通じるとも思っていない。君の常識を覆す能力に『普通』僕の弱っちい能力が通じる訳がないじゃあないか」
「……ッ!お前が普通を語るなッ」
サネが手すりを離し、宙に浮く。僕はハハ、と声に出して笑い、顔を左に傾けた。これは能力のせいではなく、僕の只の癖である。
サネは『普通』だとか『常識』だとか、そういうものの逆の事が出来る。そう、サネには僕の能力なんて通じないことは転校初日に分かっていた(通じない、ではなく通じたがサネの能力を上乗せされたのだが)。だが、突然能力を使われたら?不意を突いたら通じるだろう。「不意を突いたら普通は通じる」のを覆すなんてずっと能力を発動させていないと不可能だ。そうして、通じない能力が通じ、「普通は通り抜けられない窓が通り抜けられる」と同時に勝手に「通じない能力が通じる」という覆しが生まれたのだ。
「ハハ、やっぱりカズヤ先輩の言う通りだ」
僕の『上下左右を決める』だけでは『常識を覆す』サネには勝てない。だがそれに『計算する』のを足したら?サネとカズヤ先輩で互角だったのだ、僕が介入すればその均衡を崩れる。
「アイツの入れ知恵か」
「入れ知恵なんて言い方酷いなぁ」
「喋り方までアイツに似てやがる」
「悪いかい?」
「ああ、非常に気に食わん」
僕はサネのさっきの態度を真似て平然としてニヤッと笑って見せる。
「そういうことなら、俺もそれ相応の対応をさせて貰うぜ」
そう言うとサネは消えてしまった。

2012/04/01

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