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悪戯書き集
隠れ小道の話(前編)
その時、私は一人だった。
その小道を見つけた時、存在を思い出した時、私は決まって一人だった。
その小道を観察してみる。右側は鬱蒼と林で木々の間には竹がいくつか生えている。数十年後には竹林になっているだろう、いやそんなには掛からないかな。左側は白い壁でオレンジの屋根の可愛らしいお店がある。しかし、私がここを通る時はいつも「準備中」と書かれた札が下がっている。その間にある、緩い階段坂の、その小道。
「うにゃー……」
少し考える。今日は零一も華も用事があって遊べない、宿題もやった、買う必要のある物もない、家に帰っても特にやることはない。
「……行ってみよう、かな」
階段の前に立ち、ふとその道の先ではなく、道を行った先にあるであろう向こうの景色に目をやった。
「――!?」
まるで、南国のバカンスに来たみたいな、地中海にある離島を彷彿とさせるような。私から見て右側には空色の透き通った綺麗な海。左側には陸の部分は山のように盛り上がっていて、その傾斜に沿って敷き詰められた白いお家が沢山。それらの向こうには残念ながらとても高い壁があるけど、そんなの関係ない。これは充分に異常な景色だった。
「あァ」
後ろで溜め息のような吐息が聞こえて私はバッと振り返った。
「裕!」
「……友恵にも、見えたんだな」
そこには先程まで私が見ていた景色を見る裕がいた。
「ど、どーいう事なの、の?このヘンな景色について、知ってるのかな、かな?」
「知っているとも。何たって俺は普通の人間だからな」
私は顔をしかめた。迷探偵と呼ばれる裕が普通の人間ってちょっと常識的に有り得ないね、ね!それに、普通の人って、こういう事知らないのが『普通』なんじゃないの?
裕は私の反応を無視して話し始める。
「これが見えたってことは、お前は普通の人間ってことだ」
「え」
「この景色とこの景色が見えるってこと自体が異常な事だとは俺にだって分かってるさ。だが、これらは異能力者――ファンタジー側の人間には見えないんだ」
ふはっ、と裕は変な笑い声を上げる。推理をする時と同じ歪んだ顔だ。
「俺の知り合いでは……俺の助手が見えたな。後、俺にこの話を教えてくれた父もだ。友恵も零一辺りに確認してみたらどうだ?」
裕は私がフツーってことを皮肉ってるのか?なんだか腹が立ってきた。
「裕は私の事を馬鹿にしてるの、の!?」
「いや?馬鹿になんてしていないさ。事実を言っているだけだ」
私は黙った。いくらファンタジーに憧れていたとしても、実際に私は体験なんてしたことなくて(しかもこれが普通の人の証拠みたいな感じだなんて!)、こういう時どういう対応をすればいいのか分からないのだ。零一なら海が見えるから行くだろう。逆に海が無かったら気になりながらも絶対行かない、ヘタレだから。華なら必要じゃない限り行かないと思う。
「……行くのか?」
私が階段を一段降りると、裕が聞く。
「うん。だってこの先何があるか気になるもん、もん」
「そうか、いってらっしゃい」
「裕は行かないの、の?」
「俺は興味がないんでね。事件の匂いもしないし」
「ふーん。じゃあまた明日ね、ねー」
私はひらりと手を振って、裕に見送られながら階段を降りていった。

2012/04/10

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