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悪戯書き集
ラバーズ・オランジェット
「甘い、甘過ぎる」
チェティは首を横に振った。
「不味い、不味すぎる」
彼女は手に持った『それ』を投げ捨てた。
「どうしてどれもこれもこんなに不味い?おかしい、おかしい!」
彼女は地に転がった『それ』を苛立たしげに見つめ、八つ当たりでもするかの様に蹴りつける。初めは小さく、軽かったそれは次第に大きく重い、乱暴な蹴りへと変化していった。
「あの甘美な舌触りは!あの芳醇な香りは!あの濃厚かつ濃密な味は!一体何処へ行った!何処へ消えた!」
ドゴッ、ドゴッ!鬼の表情でチェティに蹴られる『それ』は既にぽっかりと穴が空いて空洞を作っていた。そこまでして、彼女は唐突に蹴るのを止める。
「それに比べて君の父親はとても美味しかったよ」
私へと振り向いたチェティはとろけそうな優しい笑みを浮かべた。最早『それ』に興味は失せたのだろう、目もくれずに私の方へ歩み寄る。
「ああ、またアレが欲しい」
一歩、チェティは私に近付く。
「君を食べたら、また味わえるのだろうか」
また一歩、私との距離を狭める。
「君は――美味しそうだね」
チェティの手が、私の首に掛かった。

2011/01/29

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