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ツンデレ黄金比率彼







「こ…っンの大馬鹿野郎、」
「あ、すみません、ちょっとした出来心ですよ」


 そんな会話をしている今日はハロウィンの朝。
いつもなら、もそもそ起きてもそもそ着替えてもそもそ食事してもそもそ自宅にイケナイ朝帰りをする俺なのだが、今日ばかりはそうもいかない。


…と、いうか、いけない。



「いや、今のあなたなら軽く夜までイけま」

「黙れ、夜までじゃなく一生逝っとけ」


うっわあぁ、それって今から僕とシたいってことですか嬉しいです、……なんて、哀しいかな、音声だけでは伝わらなかった同音異語の言葉を都合の良いように解釈して調子こいてるどこぞの変態超能力者を、誰かとめてくれ。


「誰がシたいなんて言ったんだ、お前のその聴覚はイかれ、」

「朝目覚めたらかわいいキョン君が更にかわいくなってました、これは愛ですか?これは僕の愛の力が涼宮さんを動かしたのでしょうか?あなたはどう思います?」

「…とりあえず人の話を聞けよ、」


 
これで確証は得た。
きっと変態超能力者の耳は、うずまき管やら耳小骨ら辺が異常をきしているんだ、

俺の突っ込みに聞き違いですらなかった返事を返す古泉にいい加減哀しくなってくる。


「にゃ、…な、なあ、」

「、キョン君…ッ!!」

「っち、違、」


かわいいです…!!、なんて、抱きついてきた拍子に古泉の紅茶色の髪が俺の耳に、触れた。

(やば、い、)


「…ふ、にゃン…っ」


くすぐったさに堪え切れず信じられないくらい甘い声が出る。よりにもよって、最悪だ。信じられない。

……古泉に聞かれた!


「あ、すみません。耳、気持ち良いですか?」

「……ぅ、馬鹿鬼畜絶倫いっぺん死んで来い!!」


いつもの微笑は何処へやら、にやにやと笑いを浮かべで見下ろしてくる古泉が憎ったらしい。
たった数センチの違いだろうが、強調するなよと出来る事なら古泉の頭に肘を乗っけて威張ってやりたいね。


「それにしてもどうして半猫化してしまったんでしょうかね、」

「お前の所為だろうが!!」


あなたまで僕の愛が云々と仰るのですか?、といっそ清清しいほどの微笑で尋ねてくる古泉が、不覚にも憎たらしいよりも格好良く見えてしまって慌てて顔を伏せる。

あれは違う。あれは朝の窓から差し込む光の加減が、たまたまいい感じに古泉のバックになったんだ。


「ふふ。」


顔を伏せてそう懸命に思い込ませていたら古泉が急に笑い出した。不思議に思った俺は古泉を見上げる。…別に好きで見上げたかった訳じゃない。たった数センチの差が生んだ、これは悲劇だ。


「…何だよ、」

「いや、かわいいなと思いまして」

「容姿も至って平凡な野郎の半猫姿で、よくかわいいなんて言葉が思いつくもんだな」

「何言ってるんですか、キョン君は世界で一番可愛いです」


至って大真面目な顔でそう言った古泉の顔を、もうまともに映すことが出来ない。

……何恥ずかしい事言ってるんだこの野郎!!


「ふふ。可愛いです」

「…恥ずかしい奴め」

「あなたこそ耳が震えてますよ?」


照れてる所が初々しくて思わず襲いたい衝動に激しく駆られてしまいます、とさらりと問題発言を言った古泉は俺を引き寄せて腕に収める。
すっぽりはまってしまったのは半猫化のせいか単に古泉の腕やら胸やらがでかいせいだと思っておこう、そうしないと男として大切な何かが失われていきそうだ。


「照れてない、」

「照れてます。」

「照れてない、」

「照れてます。」


調子に乗った古泉が面白そうに俺を弄る。
俺と二人でいる時にだけ貼り付けた笑顔のイエスマンじゃない古泉が表れるのは嬉しいが、これだけは断言しておこう。“別に照れてなんかない”と。
古泉がそう勘違いしているだけで、断じて俺は古泉の恥ずかしい言葉なんかに照れてもときめいてもましてや愛を覚えたりもしちゃいない。


「お前の勘違いだ!!」


だから。
だから、そう言った。
俺に出来うる限りの最大限の嫌悪と侮蔑の入り混じった顔で古泉を睨めつけてやった。どうだ、これで半日はいじけてくれるだろう。
開き直った夜をしのげば…と、いうかそれまでに帰ってしまえば俺には何の影響も無い。俺にとって良い事尽くめでかえって申し訳なくなるだけだ。


「……っ…我慢できません!」

「ぅにゃっ!?ちょ、こ、こいず、み、」


そろそろ替え時かな?、そう感じるベッドのスプリングが軋むのも気にしちゃいなそうな古泉は、そう言うなり俺に飛び付いてきた。

息が荒い、
顔がエロい、
声もエロい、


「というか顔がちかいっ!!!」


息を荒く乱して“キョン君…”と甘く掠れた声で耳元で囁かれれば俺の意思の抵抗も虚しく体は堕ちてしまいそうだ。


「愛してますよ…」


それは知ってる、いや知ってるから耳元で囁くな、猫耳だって立派な性感帯なんだよ!!、そう言うと古泉はにっこり笑って知ってますよ、と言う。

お前は知っててするのか、卑怯者めっ!!
思わずそう思ってしまったけれど結局は古泉に弱い俺、もうどうにでもなれ!とやけくそな気分になった。


「ツンデレの黄金比率って知っています?9:1の割合がベストだと誰かが書いていましたねぇ」


僕も同感です、なんて言いながら耳を食み、尻尾を指先で絡め取る古泉に怒りが湧く。そんな下らない事を耳元でいちいちエロボイスで囁くな、鬱陶しい。


「知ってました?」

「…っん、知るかボケッ」


誰が悲しくてそんないかがわしい文章を読むか。読むならお前一人で読んどけ。

それにしてもああ忌々しい。
古泉のせいで体が熱を持ち出したように熱い。冗談じゃなく本気でさっさと離れてくれ、今ならハルヒの前の席を贈呈してやっても良い。よかったな、これで機関の仕事もはかどりやすくなるだろう?
そう思って現実から必死に目を逸らそうとしていた俺の顔を無理矢理正面に向かせて彼は言う。


「こっち向いて下さいよ」

「断固断る」


その願いに対して俺は即答で拒否。第一無理矢理向かせといて“こっち向いて下さい”は無いだろう。
憮然とした態度で目だけを別の方向に向けている僕に古泉は溜息をつく。


「あなたは…」


そう言って唇にそっと触れるだけのキスを落とすとゆっくりと離れる。あまりに突然のその事に俺はというと固まっていた。


「僕はもう少し“デレ”の部分があっても良いと思うんですけどね」


しかしそれもあなたの魅力の一つかもかれないですね、そう言った古泉を俺は見上げる。
押し倒した俺を四つん這いに跨いでいる古泉の表情は朝の窓から差し込む光の加減のお陰で窺い知る事は出来ない。
 
けれど、分かる。

恐らく古泉は困ったような、それでも端に笑みを浮かべた微苦笑で俺を見ている事が。


「おい、」


俺が声をかけるも古泉からの返事はない。


「おい、」

更にもう一度。
それでもやはり返事は無くて。

俺は意を決して言う。


「古泉っ!!」

「……あ、はい?」

「かお!!」

「…え?」





















「かおがとおい!!」





そう言って古泉の襟を強引に掴んで寄せる。近付けてやっと見えた古泉の顔は驚きを表していた。
そのなっさけない顔に喝を入れるために奴の唇に自分の唇を押し当てる。


「俺はツンデレじゃない」


俺決死の行動は微妙に上手く決まらず失敗した雰囲気を残した。その居心地の悪さに赤面しながらも古泉を睨む。


「はい、」


あなたはツンデレ黄金比率ですからね、意味の分からない…と、いうか理解に苦しむ発言だったがそう微笑をした古泉の顔一つでさっきの痴態も有かな…なんて十分な俺は不本意ながら甘んじて受ける事にした。





















この後、俺は最終的に目の奥がスパークして古泉に啼きながら許しを請うのだが、それはまた別の話だ。























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あきゅろす。
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