きらきら星
きらきら光るお空の星よ、
「空がきれいですね」
夜空に散りばめられた幾多の星星。
僕はそれらを見て、そう、呟いた。
早いもので季節は冬だ。
寒いと思って着たパーカーはあまり役に立たない上、偶然にも彼とお揃いでもあったせいで、いたずらに僕の心を揺らす。
「寒い、」
僕はそう言ってパーカーの袖口にそっと唇をあてた。
いつの日だったか、
彼は僕にこの場所のこの風景を教えてくれた。
『綺麗だろ』
そう言って微笑んだあなたに僕は何度も恋をしたんだっけ。
細い指先
白い肌
薄桃の唇
触れたいと思うそれらは全てあなたの一部で。
それが他の誰でもなくあなただったことに、僕はただ、幸せを感じてあなたを見て笑っていたのは確か去年の夏の頃だった。
空を見渡す。
幾多の星はキラリ・キラリ、
まるで自分の存在を自己主張するかのように空、という舞台で、音も無く、輝く。
『ええ、綺麗ですね』
無音な所は控えめで、しかし輝く姿は精一杯。
その姿に僕もあなたと同じく、綺麗だと思った。
…でも。
「…僕はあなたの方が綺麗だと、ずっと思っていましたよ」
零れ出た言葉は歯の浮く言葉だけど、ずっと伝えたかった想い。
あなたはいつも自分のことを平々凡々だと言っていたけれど、本当は全然そんなことは無い。
こうしてあなたを見ている人が居たということ。
こうしてあなたを好きで仕様が無かった人が居たということ。
ずっと伝えたくて、
でも、
今はもう、伝えられない
風が一瞬、強くなった。
風が呟きをかき消すかのように、強く。
強く、音を唸らせ。
…風の音が止んだ時、不意にあなたの声が聞こえたような気がした。
たった一行しか歌わなかったその歌の出だし。
妹に強請られて歌ったその歌は、僕が初めて聞いたあなたの歌声。
「きらきら光る、お空の星よ、」
そっと口ずさめばあなたがみえる。
そっと口ずさめば記憶が甦る。
初めてあなたの笑顔を見たのは学校。
涼しげな木陰をバックにあなたが笑った時、僕の心臓が忙しなく動いたのを今もまだ覚えている。
ねえ、あの笑顔を、もう一度。
叶わない願いにそれでもいいからと、舞台の役者を見上げる。
空は相変わらず幾多の役者たちの美しさを披露している。
「あなたのことがずっと、好きです」
結局あなたに直接伝える事の出来なかった想いを今、僕は一人、呟いた。
優しい風が僕を包み込む。
少し肌寒いけれどそれも丁度いい気がして。
「ずっと、好きです」
一言一言区切るように。
…今度の風はきっと、この呟きをあなたの元まで飛ばしてくれるような気がする。
冬の夜、夜空をひとり、眺める僕。
今日は僕の想い人が失踪した日。
哀しくはないか、言われるまでも無く哀しいけれど、愛が深過ぎてどうも忘れる事は出来ないから、未練たらたら、僕は彷徨う。
道なき道を、彷徨う。
彼を探して、ただひたすらに。
「…キョン、君、」
…それに答えてくれる人などもう、いないけれど。
きらり
きらり
踊り狂うは
星か、僕か
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