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下らない妄想なら幾らだって出来る。
…でも。
その中でリアル≪現実≫と繋がるものが果たして幾つあるのだろうか、
「みんな任務完了よ、ご苦労様っ!!」
無機質なここは僕等の家≪ホーム≫。
涼宮さんのこえが響き渡る艦内、戦闘任務を無事こなして帰ってきた僕を支えるただ一人の存在を確認する為、僕は真っ先に無機質な部屋へ向かう。
彼は無事だろうか、
彼は生きているだろうか、
彼は居なくなってはいないだろうか、
彼は僕の事を忘れてはいないだろうか、
自然に足早になる僕のココロはそれらだけが渦巻く。誰かに聞いた彼のハナシなんて信用出来ない、僕が僕の目で見なければ…
──ヴンッ
機械だらけのその部屋のそれがひらく音。
“ねえ、あなたは今日も無機質な箱庭に繋がっているのですか?”
いつものように少し息を切らしてその部屋に入って来る僕を、それまたいつものようにただじっと瞳に映す彼にほっとする。
彼は糊の効いたベッドシーツを少し皺にして女の子座りでのお出迎え。すごく愛らしいけれど、他の誰かに見せてはいないかと、それだけが気がかりだ。
「さむい、」
それが最初に彼が発した言葉だった。
「キョン君、」
名前を呼ぶと彼は怪訝そうな顔で僅かに首を揺らす。
忘れてしまったのですか?それがあなたの名前ですよ、そう言えばあなたは首を左右に振る。
「────。」
「あ、そうですね」
そう言って改めて彼のあだ名でなく本名で呼ぶ。再び、あなたは首を左右に振る。
「作戦参謀です、幕僚総長殿」
「あ…そうですね、」
僕としたことが…とんだ失態でしたね、へらりと笑いそう言うと彼は少し顔を俯けて、微妙な顔をした。
この部屋に入ってから少し体の線が細くなった彼は、その俯き加減とそれに落ちる影のせいで儚くさえ見える。それでも薄明かりが君の顔に落とす影はとても綺麗だと僕は思った。
「さむい、」
つらつらとそう思っていると彼が短く言葉を発する。しかしさっきから発するそれは一体どういう意味なのだろうか?
ここは宇宙で、ここは艦内で、そして温度調整はおろか湿度・気圧その他環境を万全に整えた“治療室”であるというのに寒いわけがないのだ。
そう思った僕は彼を見つめる。
「幕僚総長殿はさむくはないですか?」
「…僕は適温だと思いますけど」
なにかの引っ掛けですか?、そう問うと彼は困ったような微苦笑を湛えた。その顔が昔の彼と重なって思わず息を呑む。
「こうして総長殿とお話をしているとさむいんです」
それはどうしてですか?と質問する僕にまた伝える為、彼が唇を動かす。喋る度にほんの少しだけ動く体を拘束する管が痛々しい。
「さあ、なぜでしょう?大切な何かが欠けているようで」
そう言って彼は微苦笑。
そしてふつ、っとまるでマリオネットの糸が切れたように彼の体はベッドに沈む。
「──ッ、」
慌てて僕は彼の体を確認する。
彼の意識がなくなる度に行うこの行為にも慣れが来た。それがどうしようもなく、悲しい。
その内、彼が記憶をなくしたまま、そのままが普通に思えるようになってしまったらと、ぞっとする。
「どうか、僕を、思い出して下さい」
キョン君、
キョン君、
愛しているから、
どうか、
「早く古泉って、呼んで下さい」
“幕僚総長殿”はあまりにもよそよそしくて、過去の彼との蜜事を覚えている僕にはさむくて。
「…やっぱり僕もさむいです、」
宇宙空間の温度も何もない場所でも、さむいと感じる事はあるのだと、初めて知ったそんな冬の日。
(彼との心を繋ぎ合わせたい、)
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