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光陽(Sanji)

※作風を変えているため、タイトルも以前と違って変えております。見苦しいとは思いますが、ご了承ください。




この麦わら海賊団と、ある海賊の船を下ろされたカタカナ推奨が出会ったのは「無人島」

その島を進めば進むほど熱気が襲ってくる。
握る汗。目を背けても、逃げ切れない事実。

――――まただ。またこの夢。

カタカナ推奨が目を開けると、薄暗い天井が見えた。現実世界に戻ったのだと気づいたカタカナ推奨は、隣に常備していた酒を手に取り、誰にも気づかれぬよう、覚束ない足取りで人気のないラウンジへ向かった。


* * * *


夜空の下、葉が音を立てて涼しげに揺れている。

季節が気まぐれにやってくるこの世界では、三年という歳月を感じさせない。

野良猫のように一人、島で生きていく事を言い渡されたわたしは、餓えながら生き延びてこの船に拾われた。
気のいい船長たちとそのクルーたちに囲まれて、今の今までその優しさに甘えてきた。
だが、もう甘えてはいけない。
帰る場所もないが、野良猫は野良猫らしく、生きていかなければならない。


クルーたちの優しさが、そんな思いを駆り立たせる。

カタカナ推奨は、手に持っていた酒瓶をあおぎ、コトっと隣に置いた。

(私は、この船に居座りすぎた。)

膝を抱え込んで小さくなったカタカナ推奨が満天の夜空を仰ぎながら思いに耽っていると、後ろの方で歩く足音がカタカナ推奨の体を驚かせた。
ただの思い込みだが、今日はラウンジに来てないんだと思っていた。

カタカナ推奨が振り向くと、そこにはサンジがばつが悪そうな表情で立っている。
「ごめんね、カタカナ推奨ちゃん。驚かせちゃったな。」
「いえ・・・」
そうそつなく答えると、サンジは置かれた酒瓶に目をやり、にわかに微笑みを浮かべながらそれを手に取りカタカナ推奨の隣に足を組んで座り込んだ。

「カタカナ推奨ちゃん、なんだか最近、元気がないように見えるのは俺の気のせいかも知れないが。何かあるなら相談に乗るぜ?」
サンジのこの気持ちだけは踏みにじらないようにカタカナ推奨は、慣れない笑顔で返す。
「ありがとう。サンジ君。でも大丈夫。」
サンジはその言葉に怪訝な表情を向けた。
「大丈夫って顔してなかったけどなあ。」
カタカナ推奨は少しばかり口許が緩んだ。
「後ろ姿しか見えなかったでしょう。」
「それでも・・・」
カタカナ推奨には分かっていた。日を重ねるごとに、わたしがこうして真夜中に一人で抜け出しているその後ろで、彼が心配そうに見つめていた事も。
いつも、煙草の微かな匂いが鼻を霞めていた。本人は黙ってその様子を伺っていたのだろうが、それを気づかないふりをしていたのも、カタカナ推奨にとっての精一杯の気遣いだった。

「甘えちゃいけないんだって、分かってるの。」
カタカナ推奨が口を開く。サンジは憮然な表情のまま、先ほどに火をつけた煙草から紫煙を吐いた。
「甘える事がそんなに、駄目な事なのか?」
「わたしの問題だったの。以前乗っていた船を下ろされたのも、原因を言えば、私が甘えていたから・・・。」
まるで過去を見ているようなカタカナ推奨の瞳を一瞥した。
「その話、もっと聞かせてくれ。」
カタカナ推奨は一瞬間を空けた後、語り口調でその旨を話し始めた。


カタカナ推奨が生まれたのは“センリン”
別名、第二の“オハラ”。
その村は、歴史を知る島として名高かった。
でも、わたしが小さかった頃に焼き払われてしまって、今は地図上にすら残ってない。その村は、歴史を研究する研究者たちの集まりの場所。
わたしも、その中で一緒に研究の手伝いをしていたけれど、邪魔になるだけだった。
その事件で、その熱心な学者たちが大事にしてきた貴重な資料も、歴史も、あの村の人たちも―――

カタカナ推奨は、この先を言おうとして口をつぐんだ。


「まさかとは思うが・・・まるで、オハラと同じような運命を辿ってる。」

「逃げてる途中、襲った海賊たちの話し声が聞こえた・・・。
“ためらいはいらねえ。政府は、俺たちを一生暮らせる程の大金で雇ったんだ”と。」

“こんな島に一人でだなんて・・・可哀想よ。ほっとけないわ。”


(・・・ロビンが、お前が“センリン”出身だと言ったとき、乗せようと勧めてきたのもそのせいだったのか。)
「やっと分かった・・・。あのときロビンは、お前の後ろに自分の影を重ねてたんだな。」
サンジはまたふーっと煙を吐き出した。
「センリンを逃げ出して、遠くまで来たとき、唯一逃げ出したわたしをある海賊が見つけたの。」

センリンの出身者だと知った瞬間、目の色を変えたわ。これは金―モノ―になると。
わたしはその苦しい生活から逃れようと必死で、その船にある宝物に目がくらんでその船に乗り込んだ。

学者として知恵が備わっていないのだと知った瞬間、乱暴な言葉を吐き捨てて、無人島へ捨てると、何も無かったかのように去っていった。」

「それは酷い。」
「だから怖いの。もう必要ないと思われる事が。だから、言われる前に、わたしは――」

「だから、自分から船を降りると?」
サンジがカタカナ推奨が言おうとした言葉を奪った。
「何か勘違いしてるかもしれねえが、ロビンは、金目当てでお前をのせようと言ったんじゃない。」

「でも、わたしは島に残るみんなを見捨てて、一人だけ逃げてしまった。それは償いきれるものじゃない。」

罪は拭い切れないのに、一人だけ、こんな恵まれて生活している。

「バカ言え。何処に罪を感じて、自分から道を外すやつがいるんだ。お前はセンリン村の唯一の“学者”だろう。俺たちは、お前が“学者”だろうと、そうでなくとも、この船から降ろす気は一つもない。」

カタカナ推奨は、怪訝そうにサンジの顔を見た。その瞳は、サンジだけでなく、ほかのクルーたちにも向けられていたのかも知れない。

「もっと大事にしなくちゃならねーもんは、自分が一番分かってるだろ。」
「・・・大事に」
「もしそれでも償いたいのなら、手伝ってやるよ。少なくとも、この船で。ここを、お前の第二の故郷にしろ。」

まだサンジの言葉に素直に頷けないカタカナ推奨だったが、次第にその言葉の意味を理解していく。

サンジの声を聞くだけでも、絡みすぎた糸をゆっくりと解いていくような心地だ。

「俺たちはあくまで海賊。こっから先、敵になるのは政府だ。」

サンジはまたトーンを変えて、明るく言葉を紡いでいった。
「そういえば、あのときは忙しくて思いつきもしてなかったが。明日、お前の歓迎パーテイを開こう。もうそんなに悩むな。」
サンジの胸中、何か、もやもやしたものがあったかもしれない。

「もう、船を降りたいなんて、そんな言葉、俺の前で言うんじゃねえよ・・・」


準備をすると言って、立ち上がったサンジが、踵を返し歩き始めたときに誰に向かって言ったのかは分からない言葉。

それは哀しくもカタカナ推奨には届かず、満天の空の中に吸い込まれるように消えていった。




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あきゅろす。
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