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Sensual Love
楽観癖の残る僕
えてして楽観的な人間は、傲慢に人生を過ぎ越し、ある日突然の破たんを迎える、僕のように。

目の前に地面に開いた洞に気づかず、落ちてから、その洞の存在に気づくが、最早遅い。何という喜劇か、散漫な散歩者は呑気に穴に落ち込み、喜劇は悲劇と化す。

明日は自由になっているに違いない。楽観癖の残る僕は、懲りずに何度そう思ったことか。だが、目が覚めて、僕は絶望する。そこには、有体の、そして非有体の、鎖を見つけるだけ。その鎖に繋がれて、僕は今に至る。

「ねえ、もうこれ、外してくれませんか。いい加減、痛いです」

彼が一人で家を出るとき、僕は、必ず繋がれる。いや、必ず、なんて生易しいものではない、例外なく、だ。例外なく僕は、監視カメラと、金属製の鎖につながれているのだ、この部屋で。圧倒的に彼は僕よりも社会に必要な人間であるからして、僕よりも外に出なきゃいけないことになる。皮肉なことに僕よりも外に出たくないのに。それはつまり、僕が鎖に繋がれなきゃいけないことになるということだ。

「ねえ、うんこちゃん。外してよ」

僕は彼がそう呼ばれると、楽しげに笑う言葉を口にした。この男の頭の中は、まるきり子どもだ。子どもじみた支配欲に満ちている。ただ支配したいだけじゃない、特別に支配しようとする。そう特別に。つまり、被支配者を意のままに操るだけじゃ治まらない、被支配者を意のままに操り更には、その手のひらの上で、何らかの芸当を見ることを求める貪欲な男だ。支配欲、自己顕示欲、征服欲、出世欲、この男は欲の塊でできている。泥のような欲で。下品な言葉がお似合いだ。

僕は、意に添わずして、彼の欲するままに行動しなければならなかった。なぜならば、僕は、可哀相な生き物だからだ。彼に生殺を預けた一人のちっぽけな庶民だからだ。僕の分だけでなく、僕の愛する人たちの分の生殺与奪権をも握られているのだから、僕には拒否権はない。

僕は、彼が好む淫らさで舌を出して見せた。唾を意味なく湧きだたせる術は、長い監禁生活で既に身につけている。彼の好む濡れ加減で、自分の舌を湿らせて、彼の唇を舐めあげる。彼を見つめる女性のほとんどがキスされたいと願い、実際にキスをしてあげているのであろう多情な男の唇を、ぺろりと舐めあげる。ねえ、もういい加減、僕なんか執着するのはやめてよ、と内心で叫びながら。

常務との約束があると言いながらも、僕の体を好きなように使い果たした彼は、自分ひとりシャワーで身支度をし直し、出ていった。僕を部屋に繋ぐことを忘れないできちんとして。そして、再びやってくる。僕の髪を梳かし、僕に服を着せる。それも彼の楽しみの一つだ。そして、今度は僕も会社に連れていく。単にバイトだったはずの僕を、周囲の不興をものともせずに社長室に閉じ込めて、やはりこき使う。今度は僕の肉体ではなく、僕という類まれなき一人の天才の精神を。


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