Sensual Love
社長の懺悔
こいつは、この俺をどうしてくれようというのだろう。偏屈で、怖いもの知らず、凄腕社長と言われるこの俺を、いつもささむけた指の爪を噛みながら、暗い顔つきで翻弄する。
「朝飯くらい、ちゃんと食え」
用意してやった朝食は、メロンが半分減っただけで、後は残ったまま。昨日は珍しく気に入ったメープルシロップ入りの食パンは、今日は一口も齧られていない。焼かないで食べるこの食パン、一斤、いくらすると思っているのだろうか。
「チッ」
そいつは舌を鳴らして、シャツに片袖だけ通した手で、食パンの真ん中を掴む。
どう見ても、その食パンの掴み方はおかしいです、と言いたくなるが、さりとて、食パンの正式な掴み方を問われたら、返事に窮する。
そいつは、真ん中だけをくり抜いて、口に放り込んだ。皿には、無残に穴のあいた食パン。
そうだ、こいつは、スイカでも、真ん中の甘いところだけを食う。鮨でも、ネタだけ食う。何でも、うまいところだけ食う。俺も、うまいところだけ食われた。いや、食ってるのは俺の方だ。ああそんなことはどうでもよいです。
「ちょっと、待て。もったいないだろう」
俺がその腕を掴むと、伸び放題に伸びた前髪の隙間から視線を寄こす、メデューサの目で。
途端に縛られたように微塵も動けなくなる俺を餌食に、手が頬に伸びてきて、唇が近づいてくる。
ドロリとしたものが、口の中に送られてくる。メープルシロップの匂い。半ば溶かされたもの。
こいつ、歯も磨いてないくせに、などと嫌がると、むしろ、喜ばせることになるから、黙って与えられたエサを食う。
唾液混じりの塊を押し込んどいて、俺がそれを飲み込むまでの間、俺の唇を噛んでいる。両頬を手のひらで包んで、好き放題に俺を舐めまわす。
パンを食え、パンを。俺じゃなくて。
「いい加減にしろ」
押しのけると、軽く押しただけなのに、ぐらりと、崩れ落ち、ぺしゃん、とフローリングに倒れこむ、ひ弱な体。
慌てて、ひざまずくと、両手を背中に絡めてきた。しまった。引っかかった、とは、後の祭り。
「何か言ったの?このエロすけべ変態のうんこちゃん」
前髪の隙間から、挑むような目で見上げている。口元にはいたずらな笑み。
「うんこうんこ、うんこ人間。うんこでできたかたまり。うんこが喋ってるう」
こいつは、アホか。駄目だ。朝から、力が抜ける。朝ぐらい凄腕の顔つきでいさせてくれ、とは無駄な望み。
そうです、俺はうんこです。周りの人が勝手に怖がっているだけで、ホントは、ただのうんこです。しかも、エロすけべ変態なうんこです。もう、それでいいです。
こうなったら、「うんこうんこ」と連発しているそいつの唇を、俺の唇で塞ぐしか方法はないだろう。
途端に、俺の下で体がくねる。俺好みの淫らさで、体を蠢かしてくるから、高まってくるのは、何とも悔しい男のサガ。
……時間、あるか?いや、無理だ。朝一で常務を呼びつけてる。
生ぬるい舌が絡んでくる。体全体で、俺を良いように刺激してくる、ああ、常務、ごめん。ちょっとだけ待たすことにするね。
もう、俺、ただのうんこだから。こいつのせいで、脳みそ、うんこになってるから。ホント、ごめん。マジ、ごめん。超、ごめん。と懺悔した朝。
fin.20100419
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