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Sensual Love
シロツメクサ
愛している、の形を作りたい。

言葉は、消えるから、言葉ではないもので、愛を伝えたい。





シロツメクサが、庭の一角で、白く可憐に揺れている。

僕は、その白い姿を一輪抜いた

シロツメクサは、雑草だ。

所詮、草だ。

僕は、もう一本、抜いた。

軸の部分を、もう一本の花弁の根元に巻きつかせ、また、もう一本を巻きつかせる。

シロツメクサを長く編んでいく



所詮、雑草だ。雑草にすぎない。雑草だからこそ。



あるいは、雑草だからこそ。



王冠を作ろう。




裏庭の芝生の上に、広がる、野生のシロツメクサ。これを編んで、王冠を作ろう。

誰のための王冠か。

決まり切っている。

王冠を戴くのは、彼しかいない。

僕の王は、彼だ。

きっと、彼は、ナポレオンのように堂々と。

キリストのように聖らかに。

この王冠を、御頭に戴く。

雑草だからこそ。

彼の生命の輝きに、沿うはずだ



彼は、虚飾なく、生きているからだ。



僕は、本を片手に芝生に寝そべる彼の肩を揺らした。

「王冠をつくったよ。ほら」

できあがったシロツメクサの王冠を、彼の頭に載せる。

だが、彼は、さも面倒くさそうに、僕の手を払った。

「もう少し、大きいの作って」

王冠を見ようともしない。

「せっかく作ったのに」

彼は、早くあっちへ行けとばかりに、手を振る。

「いいから、もう少し、大きいの作ってこいよ」

面倒くさそうに、言うだけだった。 

僕の作った王冠など、気にも留めない。




それでも、僕は、王冠を少し大きくするために、また、シロツメクサを摘んだ。輪をほどいて、少し大きくなった王冠を、作り上げた。




彼のもとに、それを届ける。

彼の頭に戴冠させた途端、彼は、それを下ろした。

「ん?もうちょっと、長くして」

やっぱりだめか。

どうせ、彼には、受け取る気などないのだ。


それでも、もう一度、輪を解いて、シロツメクサの王冠を長くする。

もう、やけっぱちだ。

長くしろというなら、長いのを作ってやる。どうせ、捨てられるだけだろうけど。








……ちょっと長くなりすぎたかな?




僕が、王冠にしては大きすぎる輪っかを手に、座り込んだままでいると、彼が、やってきた。

閉じた本を片手に、薄く微笑んでいる。読み終わったようだ。

「あ、長すぎ……?」

「十分だ」

彼は、輪っかを取り上げた。

そして、僕の首に掛ける。

輪っかは、僕の首に収まった。

「ちょうど、いい」

彼は、微笑んだ。

彼のために作ったはずの王冠は、彼の手によって、僕の首飾りになっていた。




彼は、首飾りを引き寄せて、僕の頬にキスをした。

「異国の王子様みたいだ。よく似合ってる」

そして、唇にキスしてきた。

甘やかなキス。僕の体から、力が抜けていく。

彼は、異国の王子の唇を、遠慮なく凌辱する。




これは、王冠でもなければ、首飾りでもない。


鎖だ。






僕を、彼に縛りつける鎖。

シロツメクサの鎖。

草の匂いのする、雑草の鎖。

 


彼のキスが、鎖を、僕の体に、甘く絡みつかせていく。







これも、きっと、愛の形。

草の匂いのする、愛のかけら。












20090729
with Y

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あきゅろす。
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