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カイイヌニカマレル
俺は、自分でも呆れるほど、敏をかわいがった。

俺は、多くのものを与え、知識を吹き込み、考えを支配していく。

もともと与えられたものの少ない敏は、渇いたスポンジのように、何でも、吸収していく。ほんの少しのヒント、ほんの少しのきっかけ、ほんの少しの愛情で、敏は、いろいろなものを吸収し、生命力を増していく。

面白いほどに、俺に操られ、変わっていく。明朗で、素直で、誠実な様子が見られるようになってきた。そうだ、これが、本来の奴の姿だ。

そして、俺を、信頼しきっている。幼い子どもが、母親に甘えるように気を許している。しかし、奴に自覚はない。健康な人間が、常に隣にある死の存在に気づかないように。




「僕の守護神は、貧乏神なんだ」

言ってしまってから、奴は、少し、恥ずかしそうな顔をした。

「信じないよね。聞かなかったことにしていいよ」

貧乏神なら、まだ、いい。

「俺には、死神がついてる」

「あは、まさか。死神は、死なせるほか、何かしてくれる? 僕の貧乏神は、僕を貧乏にするけど、すごいんだよ。人を操れる。僕が、ここにいるのも、貧乏神のせい。僕、貧乏神に頼んだんだ。ヒデみたい人と友だちになりたいって。そしたら、家が、火事になって、ここに拾ってもらえた。でも、これって、友だちじゃないよね」

ああ、そうだ。

まったく、俺たちは、友だちじゃない。

俺は、煩くなりそうな奴の唇を塞いだ。

途端に奴の瞼が重くなり、肩の力が抜ける。柔らかくなった体を持たせかけてくる。いい加減なところで突き離すと、潤んだ目を、伏せた。

「これって、全然、友だちじゃない。貧乏神の奴、間違えてる」

悔しそうに呟くが、もっと、欲しがっているのが手に取るようにわかる。

「どうして、ヒデにこんなことされなきゃいけないんだろ」

「お前が、されたがってるからだ」

「僕は、そんなこと」

では、求めなければいい。

俺を求めてこなければいい。

「じゃあ、しねーよ」

全身で、俺に愛されることを求めてこなければいい。

お前は、俺に何もかもを明け渡しているだろう。身も心も何もかも、既に明け渡しているだろう。

おずおずとシャツに手を伸ばしてきた敏の手を引っ張ると、容赦のない口付けを与えた。敏もまた、激しい口付けに応えてくる。

身も心も、もう、俺の所有物になっている。そうだろう?

これだけ、かわいがってやっているのだ。

お前に俺のものになっていないものは、髪の毛一本ほども、残っていない。

しかし。

俺は、自分では、気づかないうちに、あまりにも、敏に、傾倒し過ぎていたのかもしれない。

ある日、敏は、もっとも、手ひどい方法で、飼い主に噛みついてきた。













自殺を図るという方法で。












それは、あまりにも、ひどい裏切りだ。

お前をかわいがる俺への。














それは、あまりにも、ひどいあてつけだ。

生きながら死んでいかなければならない俺への。

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あきゅろす。
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