U sideHIDE
傀儡
母犬が子犬の体を舐めるようにして、示す愛情。何からも守る保護。幼い子どもに与えられる動物的な愛情表現。こいつには、どう見たって、そういうものが欠如している。
そういうものが欠如している子どもは、大きくなれば、異性に対して過度にそれを求めるとかいうが。
そんなもの、俺がどうやって、与えればいい。
だが、俺には、時間がない。
俺の脳みそは、腐りかけている
気がつけば、俺は、奴に唇を寄せていた。
「うわッ、気持ちわりー」
自分のしたことに驚いて、声を上げていた。
何をしたんだ、俺は。
男相手に。
しかし、目の前のこいつは、身じろぎもせず、ぼんやりとこちらを見返しているだけだった。
抵抗はない。かすかに驚いたそぶりだけ。
そうか、何をされても、抵抗できない。
犬だからな。こいつは。
もう一度、口付けてみた。
やはり、抵抗はない。
なるほど、こうやって、愛情を示してやるのも悪くない。
犬がよく唇を舐めてくるあれだ。あれと同じだ。
それから、俺は、犬に愛情をかけてやった。犬は、だんだん、人間に怯えなくなってきた。俺にすっかり、なついてきた。
学校へ向かう目も明るくなり、家でも、使用人たちとも、打ち解けている。
犬、いや、坊上敏は、自分で思っているような人間ではない。愛情さえ受けて、自立すれば、人を救えるような人間だ。
こいつは、俺の代わりにするに足る。
いい拾いものをした。
こいつを、俺の傀儡に仕立て上げよう。
そして、こいつを、この世界に残していこう。
やがて、消えゆく俺の身代わりとして。
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