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路上に、汚らしいものが這いつくばっている。以前ならば、汚い彼らには、同情を覚えていたが、今では、奇妙な、興味をそそられる。


汚らしいままのもの、おぞましいままのもののほうが、より、明確に世界を具現しているのではないか。それらには、虚飾がない。俺の美意識が、奇妙に捻じ曲げられたのか。


あいつだって、そうだ。ああやって、路上に這いつくばって、罵られ、蔑まれても、何の抵抗もしない。自転車でぶつかってきたチンピラに、はなから白旗を上げて降伏しているが、戦わないあいつは、結局のところ、誰にも打ち負かされない。チンピラは、雑言を残して去ったが、果たして勝者は、本当のところ、どっちだ?


俺は、自転車に撥ねられたまま、地面から起き上がろうとしない惨めな男に、声をかけた。立ちあがらせ、ズボンの土を払い、そいつの鞄を拾い上げる。

俺の親切が、この男を、更に、惨めにさせるだろう。惨めにならないとすれば、ただのクズだ。

起き上がった、そいつの顔を見て、俺は、ぎくりとした。

何だ、これは。

男の顔には、薄く線が入っていた。線が、横一文字に、彼の顔を真っ二つに割っている。

彼は、己の無様さを恥じて、すぐにそっぽを向いたが、見間違いではない、確かに、線が見える。線は、頭髪にも伸びている。描いたものではない

……死線?

世界が灰色にしか見えなくなっている俺には、とうとう、そんなものが見えるようになったか。

そいつは、俺から鞄を受け取ると、顔を歪めて、逃げるように背を向けた。

俺は、その後をつけていた。男は、すぐ先の、路地裏の古いアパートに入っていった。 

どうかしている。何で、こんな真似を。あいつが死ぬのを、確かめたいのか。死体でも見たいのか。この頃、俺は、汚らしくて、惨めで、可哀そうなものに、憐憫以上のものを抱きすぎる。俺以上に、哀れな奴などいないのに。

そいつは、鍵を開けて、部屋に入っていった。

俺は、何をしようとしているのだろう。

我に返って、自分の愚かしい行為に、腹が立ち、そこから、去った。

翌日、テレビに、その古いアパートが映っていた。めらめらと炎が上がっている。ニュースが、火事を伝えていた。

やはり、あの線は、死のサインだった。あいつは、焼死したに違いない。

俺は、テレビを見ながら、朝食をきれいに平らげていた。

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