U sideHIDE
愛
敏は俺を癒した。
灼熱の夏に始まった俺の狂気は、奴の寛容によって、凪ぎ消えていった。
今、俺は、日常生活を取り戻している。以前のように、学校生活を楽しみ、仲間と普通に過ごし、バスケにも再び取りつかれている。
俺は、すっかり、俺を取り戻した。敏が俺を癒したからだ。
今になって、敏が、大きな癒しを与えてくれたことに、気づく。
もう、誰かに縋りたいような自分ではない。
何をも恐れない自分を取り戻している。
そして、俺が俺自身を取り戻した今、敏に対して、愛着を残している自分に気付く。
愛されたいと求めてくる敏を、俺もまた、愛してしまっていた。
この寂しさは、恋情だ。
背後に、枯葉を踏む音を聞いた。
振り返って、そこにいたのは、敏だった。
胸の奥に静かに波立つものがある。
久しぶりに見る奴の、はにかんだ顔。
顔を見て、自分がどれだけ奴に渇いてしようがなかったのかに気づき、おののく。
どうして現れた?
俺は、驚き呆れ、腰を抜かしそうだった。
俺に会いに来たのか?
「隣、座ってもいい?」
敏は、俺を柔らかく見つめている。
抱きしめたくてたまらなくなる。
「何してたの?」
敏は、照れたような笑みを浮かべていた。
以前通りだった。敏は、俺に気を許したままだ。
どうして、こいつは、こんなにも、俺を安らがせるんだろう。
寂しさは霧消している。
「街を見てた。冬は、いい。冬が一番、いい」
敏は、俺に、驚くものを渡してきた。
一枚の紙切れ。
それは、大学の合格通知書だった。
どういうことだ?これは。
奴は、自力で合格したのか。俺の助けもなしに。奴が自力で。
まさか。不可能だ。
俺は、敏の顔を見た。少し、痩せている。俺から去った後、奴が、どんな時間を過ごしたか、手に取るようにわかった。
不意に、愛しさが込み上げてくる。抱きしめたくてしようがなくなる。
奴は、俺から去った後、俺をひたすら追い掛けていた。俺のことを想い続けていた。奴の中には、俺がすっかり残っているのだ。
まだ、俺に、お前を与えてくれるというのか。
まだ、俺のものでいてくれるというのか。
痩せた体を抱きしめたくなるのをこらえて、枯葉に寝そべった。
できることなら、この腕にもう一度抱きしめたい。
抱きしめて、優しく愛してやりたい。
思い堪えながら、寝そべる俺の上に、奴は、屈みこんできた。
「ヒデ……。僕、ヒデが好きだ」
狂おしく俺を求める顔だった。
俺は、奴の顔を引き寄せた。そして、唇を重ねた。
俺は、敏を愛する。
優しく愛する。
支配ではない。
敏は、この世で最後の授かりものだ。
俺は、敏に癒されたが、俺も敏の人生を救ったはずだ。
俺たちは、互いに、救いあった。そして、今度は、愛しあおう。
俺は敏に、敏は俺に、愛を残していく。
この愛は、互いの一生をずっと明るくするだろう。
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