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それは、寛容
俺は、敏を犯した。

体を蹂躙する。体に教え込む。そうだ、俺のしてきたことは、生き物への支配だ。

かわいがっても無駄なら、こうするまでだ。

いや、もとより、かわいがる気持ちなど、さらさらない。俺は、支配したかっただけだ。傀儡にしたかっただけだ。

そのときの俺は、肉体を支配することで精神をも支配せしめようとする、醜い餓鬼だった。

惨めな餓鬼だった。生命を求める哀れな餓鬼だった。

痛いだろう、痛いに決まっている。

惨めだろう。惨めになればいい

お前は俺に酷いことをした。

敏は、俺に犯されながら、手を伸ばしてきた。

ずっと、俺の目をまっすぐに見上げてくる。

「ヒデ……。好きだ」

俺は、ぞっとしながら、その声を聞いていた。





どうして、今、そんなことを言ってくる。





こんな愚かな俺に向かって。





俺を憐れんでいるのか?





クソ。

憐れまれるのだけは断る。それだけは、許さない。




「ヒデ、と、友だちになりたかった……」

苦しそうな息使いで、愛しそうに頬に手を差し伸べてくる。

何てことだ。










打ち負かされている。
 











俺は、奴に、打ち負かされている。













甘えていたのは、敏ではなくて、俺。

拾われたのは、敏ではなくて、俺………、だったのか。






何されても、抵抗せず受け入れる、それは、無抵抗、ではなく。










――――寛容










俺は、迫害者だ。

そして、敏は、どんな迫害を受けても、迫害者に笑顔を向けてくる。
 






敏は、何度も、好きだと、伝えてきた。

もう犬ではない、人間の目で、何度も何度も、敏は、想いを告げてきた。




 










俺は、敏から、離れなければならなかった。

彼を、彼自身に戻さなければならない。

俺の傀儡になどすることはできない。

彼の寛容に甘えていることに気づいた以上、彼のそばにはいられなかった。

俺自身の尊厳のために。

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